Webマガ

Book

【連載】調理とおいしさの考察――1⃣ひとくちに“みりん”といっても(後半)

栄養学新刊

  • facebook
  • twitter
  • line

松本仲子 女子栄養大学名誉教授

 

松本仲子監修『調理の基本 まるわかり便利帳』を、女子栄養大学出版部より2021年4月に上梓しました。本書は、食材のこと、下ごしらえ、切り方、味つけ、調理法から、栄養価計算の方法、気になるエネルギーと塩分コントロールの基礎知識まで、調理の基本がまるっとわかる一冊です。

本書監修者の松本先生に、長年の研究にまつわるエピソードを交えて、調理のおもしろさを語っていただく連載がスタートします。

まずはみりんのお話から、2話目をおとどけします。

 

■みりんの成分を見てみましょう

みりんは、蒸したもち米に米麹、焼酎あるいはアルコールを合わせて糖化・熟成させたもので、成分の約50%は糖分、そのうちブドウ糖を主体とする直接還元糖は43.2%。アミノ酸を含む窒素化合物0.3~0.5%、乳酸、コハク酸、クエン酸などの有機酸、ほかにアルコール14%を含んでいます。

甘味の主体である糖の内訳は、ブドウ糖、麦芽糖、オリゴ糖、トレハロースなどです。

それぞれの甘味の強さは、ショ糖の甘味を100として,ブドウ糖50~60、麦芽糖60、オリゴ糖やトレハロースは穏やかな甘味を示すとされています。

また、アミノ酸としてはグルタミン酸のほか、強甘味のロイシン、甘味を呈するアスパラギン酸などで微量ながら甘味に関与しています。

砂糖の強い甘味と違って、みりんの甘味がまろやかで穏やかなのは、これら種々の甘味が集まったものだからでしょう。

アルコールは、熟成期間中に、有機酸やアルデヒドと反応して香気の生成に関係し、濃度が高いと刺激的な味ですが、熟成が長い本みりんでは、かどがとれてしだいにまるい味になるといいます。

また、糖とアミノ酸が反応して生じたメラノイジンがみりんの色のもとになっています。

 

 

■みりんを砂糖で代用するには

ところで、教科書などでは、

「みりんを砂糖で代用するには1/3量、砂糖をみりんに置き換えるには3倍量」

と書かれているのを見かけますが、そのことについて説明しましょう。

砂糖9g(大さじ1)を みりん で調味するとします。

――みりん中の糖量を直接還元糖のブドウ糖で代表させるとすると

砂糖        みりん中の糖量

9g × 43.2% =  3.89g

――ブドウ糖の甘味度を60%とすると

3.89g × 60% =  2.33g

➡みりんの甘味の強さは砂糖の約1/4弱

――砂糖9gの砂糖と同じ甘味にするのに必要なみりん量は

9g ÷  2.33g =  3.86

➡約4倍

このように計算の結果では、みりんの甘味を砂糖の甘味と同じにするには、3.5~4倍が必要となります。

 

でも、実際には「みりんを砂糖で代用するには1/3量、砂糖をみりんに置き換えるには3倍量」とするのは、次のような経緯によっています。

昭和30年代には一般家庭にも普及し、調理実習でもみりんを使うことが多くなり、みりんを砂糖で置き換えるにはどのようにすればよいかを、女子栄養大学でも検討することになりました。

当時、助手を務めていた私は、上記のように計算して、「3.5~4倍量とするとよいでしょう」と、当時の調理学教授の上田フサ先生に伝えました。

ところが、しばらくして、上田先生から、「これでは甘すぎるように感じる」との指摘があり、官能評価で等価刺激を測定することになりました。

等価刺激とはこのようなものです。

たとえば、新しい甘味料が開発された場合、砂糖の代わりとして使うには何倍、あるいは何分の一量使えばよいかを示すために、砂糖と同じ甘味の濃度を測定する必要があり、これを等価刺激といいます。

測定の結果、みりんの等価刺激は砂糖の1/3でした。

このように、上田先生のご指摘があって、「3倍量、1/3量とする」ようになったのです。当時、計算値と等価刺激値の違いについて、少し調べてみましたが、詳細はわかりませんでした。

また、みりんの代わりに砂糖を使うときは清酒と併用するのが普通で、「みりん大さじ1」は、「砂糖大さじ1/3 と清酒大さじ1」とします。

この場合、甘味の強さはほぼ同じであり、清酒を使っているので、味わいはほとんど同じだろうと、あまり意に留めませんが、両者の違いを味、フレーバー、色沢などの点から比較した興味深い報告がありますので、表に示しましょう。

大概のところでは、臭みを消す効果は変わりないのですが、みりんの甘味はまろやかであり、焦色がつきやすく、照り・つやも付きやすいとされています。

甘味の強さは同じで、他成分も類似しているとしても、糖化・熟成の期間中に、分解によって生成した成分が複雑に反応して、本みりんの深みある甘味や香りが醸成されているのでしょう。

松本仲子(まつもと なかこ)
女子栄養大学名誉教授。1936年旧・京城(現ソウル)生まれ。女子栄養大学大学院教授、桐生大学教授を歴任後、現在、聖徳大学大学院講師として教鞭をとる。「調理法の簡略化が食味に及ぼす影響」などの研究を行う。女子栄養大学出版部より、2021年4月に『調理の基本 まるわかり便利帳』を監修・出版。

  • 松本仲子さんが監修した書籍のご紹介

『調理の基本 まるわかり便利帳』

■松本 仲子/監修
■978-4-7895-0523-9
■B5判変型 182mm×210mm 192ページ
■定価:1,760円(本体1,600円+税)
■発行年月:2021年4月

 

 

詳細はこちら

  • facebook
  • twitter
  • line