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食品成分表

【成分表連載52】「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の活用に「食品成分表」が必要な理由

知れば知るほどおもしろい!「食品成分表」渡邊智子栄養学食品成分表

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渡邊智子 学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長

 

わたなべともこ東京栄養食糧専門学校校長。医学博士。千葉県立衛生短期大学、千葉県立保健医療大学、淑徳大学を経て現職。千葉県立保健医療大学名誉教授、千葉県学校保健学会理事長、産業栄養指導者会会長。文部科学省による日本食品標準成分表の策定に食品成分委員会委員等として30年にわたり携わり、成分表活用の研究・提言を行なう。千葉県食育推進県民協議会委員として千葉県の食育ツール(グー・パー食生活ガイドブック等)の開発・普及も行なっている。『八訂食品成分表2025』本表監修(女子栄養大学出版部)。著書に『これだけは知っておきたい!「食品成分表」と「栄養計算」のきほん』(講談社)ほか。

 

食事摂取基準は「照らし合わせる」ためのものです

「日本人の食事摂取基準(2025年版)」が昨年公表され、2025年4月から利用されています。「食事摂取基準」の英語表記は「Dietary Reference Intakes」であり、Referenceには「参照」という意味があります。基準の策定検討会の座長を務めた佐々木敏先生のご講演でも「食事摂取基準は(ピッタリ合わせるためのものではなく)“照らし合わせる”参照とすべきものです」と説明されていらっしゃいます。

「日本人の食事摂取基準(2025年版)」は、参照体位の人(平均的な日本人)についての、エネルギーや栄養素の指標が現時点の最新の科学的根拠により示されています。

表1は「日本人の食事摂取基準(2025年版)」で指標を示すための参照体位の人です。
ご自分の性年齢に対応する部分をみてみましょう。

表1 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の表 参照単位(参照身長、参照体重)

 

 

 

表2は「日本人の食事摂取基準(2025年版)」で示されている、表1で示した参照体位の人の推定エネルギー必要量です。

ご自分が参照体位と異なっていれば、表2の推定エネルギー必要量も当然違ってきます。

表2 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の参考表 推定エネルギー必要量(kcal/日)

自分の体格が参照体位とどれくらい違うかを知っていると、食事摂取基準の指標を見た時にその違いについて推察することができます。

 

  • 2つの表を使って「照らし合わせる」を具体的に体験してみましょう。

    Aさん[40歳女性、身長155㎝、50kg、身体活動レベル(ふつう)]を例に考えてみましょう。

    表1表2をみると以下の記載です。

    表1の参照体位

    40歳女性:158.5cm 53.3kg

    表2の推定エネルギー必要量

    40歳女性:活動レベル(ふつう) 2050kcal

    Aさんは参照体位よりも身長も体重も小さいことがわかり、表2の推定エネルギー必要量2050kcal では多すぎると推察できます。これは、表1表2を照らし合わせて考えたからわかることです。

    一方、「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、推定エネルギー必要量を算出した計算式も示されています。 

    推定エネルギー必要量の計算式

    推定エネルギー必要量 = 体重1kgあたりの基礎代謝量基準値 × 参照体重 × 身体活動レベル基準値

    小児および妊婦・授乳婦は、成長や妊娠継続・授乳に必要なエネルギーを付加量としてこれに加えます。

  • 推定エネルギー必要量の計算をしてみましょう

    小児及び妊婦・授乳婦以外の推定エネルギー必要量の計算について記載します。

    「日本人の食事摂取基準(2025年版)」には体重1kg当たりの基礎代謝量基準値(kcal/kg/日)と身体活動レベル基準値が示されています。前者を表3、後者を表4に示しました。

    表3 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の体重1kgあたりの基礎代謝量基準値
    (kcal/kg/日)

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    表4 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」身体活動レベル基準値

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    前述の推定エネルギー必要量の計算式を使って、Aさんの推定エネルギー必要量を計算してみましょう

    Aさん[40歳女性、身長155㎝、50kg、身体活動レベル(ふつう)]に対応する表3表4の値

    体重1kg当たりの基礎代謝基準値(kcal/kg/日):21.9

    身体活動レベル基準値:1.75

    上述の推定エネルギー必要量の参照体重には、Aさんの体重50kgを代入します。

    Aさんの推定エネルギー必要量 = 21.9 × 50 × 1.75 = 1916 kcal /日

    1916kcalは、Aさんの推定エネルギー必要量(現在の体重を維持するために必要なおおよそのエネルギー量)であることが計算できます。

    この値は表2の値(Aさんの性年齢に対応する値)である2050kcal よりも少ないことがわかります。

    「日本人の食事摂取基準(2025年版)」に詳細に記載されているのでご覧ください。

栄養士・管理栄養士は食事摂取基準を「参照」します

栄養士・管理栄養士は、「日本人の食事摂取基準(2025年版)」を参照し、個人や集団の身長や体重や活動量などを測定やアンケートなどにより把握し、それを考慮し対象者や対象集団のためのエネルギーや栄養素の指標を決めています。

一方、全国規模などで大量に生産される不特定多数を対象とした工業的な製品では、ユーザーが「平均的な日本人」つまり参照体位の人なので、「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の指標(その値)をそのまま使います。たとえば、コンビニのボリューム満点をテーマにしたお弁当は、表2で最もエネルギー量が多い[15-17歳男性、身体活動レベル(高い)人のエネルギー量 3150 kcal]の1/3(1食分)である1050 kcal 程度を目安に作られています。

食事摂取基準の活用には「食品成分表」が必須です

「日本人の食事摂取基準(2025年版)」は、日本人にとっての調和のとれた食事(「バランスがよい食事」、「望ましい食事」ともいいます)の科学的な根拠です。ただ、私たちは、ペットフードのように、調和のとれた望ましい食事として栄養素を集めて食べるわけではありません。食事摂取基準のエネルギーや栄養素を食事(食品や料理の組み合わせ)として食べています。食材、料理、食事の外観、香り、味や季節感などを楽しみ、喜びとしているためです。

食事摂取基準を適切に「食事」として整えるためには、「食品成分表」が必要です。最新の「食品成分表」を適切に活用すると、食事摂取基準から設定した対象者のための指標を具現化できます。つまり、「食品成分表」を活用してこそ対象者や季節に合わせた食品や料理を選択して組み合わせることができ、食事摂取基準を理解し適切に運用しているといえるのではないでしょうか。

「日本人の食事摂取基準(2025年版)」を利用するにあたり、改めて「食品成分表」の「使い方を見直したい」、「もっと有効に使いたい」、「わかると楽しいらしい」のお声もいただいています。「食品成分表」は食品成分のデータベースですが、対象となっているものは、見て触って香りを楽しみ、味わって食べることができる、実感できる食品や料理です。なので、親しみやすいデータベースといえます。

サイトの過去の連載を見ると、「食品成分表」を使ってみてわからなかったことや知りたかったことが、わかるテーマがあるかもしれません。探してみませんか。また、記載がなければ、編集部に「○○について取り上げてください」など、リクエストもお気軽にしてください。

みんなで、食品成分表を楽しく使っていきましょう!

・これから何回かにわたって「日本人の食事摂取基準」と「食品成分表」についてとり上げる予定です。

おまけ 最近驚いたこと

小学校教諭の友人が子どもたちに「家庭で常備している調味料はどんなものがありますか」と聞いたところ、塩も砂糖も常備していない家庭が散見されたそうです。その家庭の調味料は合わせ調味料が主だったそうです。「小学校の家庭科で青菜の塩ゆでを教えることができなくなりました」とのことでした。

「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」で合わせ調味料を新規食品として収載した理由は、ユーザーが家庭で作っているが計算するのは手間であろうと考えてのことでした。今は、合わせ調味料が広く販売され利用されています。2015年版作成当時は、この状況をまったく把握できていませんでした。

人の食品選択は自由なので、成分表はユーザーの食品の利用状況をふまえ、これからも改訂されていくものと思います。

 

 

 



 

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香川明夫/監修

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