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食品成分表

【成分表連載49】「食塩相当量」は減ってきた!? 食品成分表の「しょうゆ類」の変遷

知れば知るほどおもしろい!「食品成分表」渡邊智子栄養学食品成分表

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渡邊智子 学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長

 

わたなべともこ東京栄養食糧専門学校校長。医学博士。千葉県立衛生短期大学、千葉県立保健医療大学、淑徳大学を経て現職。千葉県立保健医療大学名誉教授、千葉県学校保健学会理事長、産業栄養指導者会会長。文部科学省による日本食品標準成分表の策定に食品成分委員会委員等として30年にわたり携わり、成分表活用の研究・提言を行なう。千葉県食育推進県民協議会委員として千葉県の食育ツール(グー・パー食生活ガイドブック等)の開発・普及も行なっている。『八訂食品成分表2024』本表監修(女子栄養大学出版部)。著書に『これだけは知っておきたい!「食品成分表」と「栄養計算」のきほん』(講談社)ほか。

 

しょうゆは、日本独自の調味料の1つです。しょうゆの原型は古代中国から伝わった「醤(ヂャン)」です。日本では「醤」と書き「ひしお」と読みました。これは、塩辛のような発酵食品で材料により「魚醤(うおびしお)」、「穀醤(こくびしお)」「肉醤(ししびしお)」などがありました。醤油の原型は「穀醤」です。
今回は食品成分表の「しょうゆ」について食塩相当量の変遷から見てみましょう。

1初版~改訂成分表:初版では2種類、改訂版では1種類のしょうゆ

1950(昭和25)年に公表された初版の「日本食品標準成分表」では豆類に所属しています(初版の成分表は16群で構成され調味料類は群がありませんでした。しょうゆは主材料になる食品が所属する食品群に所属していました)。
しょうゆは、「しょう油」と「アミノ酸しょう油」(小学館デジタル大辞泉によると「脱脂大豆などを化学的に分解したアミノ酸を主にしてつくった醤油。また、アミノ酸を加えた醤油。」)の2食品が豆類に収載されていました。どちらも、備考欄に「食塩18.0%」の記載があります。

「改訂日本食品標準成分表」[1954(昭和29)年公表]のしょうゆは、豆類に収載されている「しょうゆ」1食品だけです。備考欄には、「100cc中食塩18g」の記載があります。この成分表では、「調味品類,その他」が新食品群として追加されていますが、しょうゆは、初版と同様に豆類のままでした。この「しょうゆ」は初版と異なる収載値(脂質、糖質、灰分,ビタミンB1およびB2以外)なので、新たに分析した食品であると推察されます(表1)。

表1 初版成分表と改訂成分表のしょうゆ の主要な成分値(100g当たり)

『日本食品標準成分表』『改訂日本食品標準成分表』より。項目名や単位は出典の表記どおりにしました。

三訂成分表:「豆類」から「調味品類その他」へ移動。ナトリウムが成分項目に追加

1963(昭和38)年公表の「三訂日本食品標準成分表」は、ナトリウムが成分項目として追加された成分表です。しょうゆは、豆類から「調味品類その他」に移動し、「しょうゆ」1食品が収載されています。備考欄には、「食塩18.0%」の記載があります。改訂成分表と異なる収載値は、ビタミン類[ビタミンB1、B2、ニコチン酸(改訂成分表ではナイアシンと表記)]なので、ビタミン類の分析を新たに行ったと推察されます。

3)四訂成分表:しょうゆ類は「調味料および香辛料類」の5食品

「四訂日本食品標準成分表」[1982(昭和57)年公表]のしょうゆと食塩相当量を表2に示しました。

四訂成分表の第4章 1.改訂における食品群別留意点では、「三訂成分表では一括していた「しょうゆ」を日本農林規格の分類により、5種類に分類した」と記載されています。四訂成分表のしょうゆの食塩当量は、初版のしょうゆに比べ、すべての食品で少ない値になっています。

表2「四訂成分表」収載のしょうゆの食塩相当量(100gあたり)

*減塩率(%)=100-食塩相当量÷18g×100

4)五訂成分表・成分表2010・成分表2015(七訂)

五訂成分表では、四訂成分表および関係資料(財団法人日本醤油研究所資料)に基づき、ナトリウム量が改訂されそれに伴い食塩相当量も改訂されています(表3)。
四訂成分表に比べ、「さいしこみしょうゆ」以外は食塩相当量が低下しています(赤字)。
五訂成分表の収載値は、成分表2010および成分表2015(七訂)でも同じ値です。各成分表では策定にあたり、財団法人日本醤油研究所(現:一般財団法人日本醤油技術センター)に 現状を聞きとっているので、五訂成分表が公表された2000年から成分表2015 が公表されるまでの15年は、常用されるしょうゆの食塩相当量は、この値だったことがわかります。

表3 五訂成分表、成分表2010、成分表2015収載のしょうゆ(食塩相当量g/100gあたり)

*1 減塩率(%)=100-食塩相当量÷18g×100 *2 減塩率(%)=100-食塩相当量÷四訂成分表の収載値×100

5)成分表2015(七訂)では「減塩しょうゆ こいくち」が新規収載!

「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」(平成27(2015)年公表)では、四訂成分表、五訂成分表および成分表2010に収載されていた5食品に加え、「減塩しょうゆ こいくち」が減塩しょうゆとして初めて収載されました。さらに、「だししょうゆ」、「照りしょうゆ」も追加されています。

  • 「減塩しょうゆ」とは

    通常のしょうゆを製造後、食塩だけを特殊な方法で取り除き、旨味、香り等、他の成分はそのまま残して作るしょうゆ。

  • 「だししょうゆ」とは

    市販のしょうゆにだしを加えうまみによる減塩を目的とした調味料。しょうゆやだしの種類と配合割合により成分量が異なる。収載食品は、「こいくちしょうゆ」1:「かつお・昆布だし」1の割合で作ったもの。

  • 「照りしょうゆ」とは

    魚等を照り焼きする時などに、照りを出すために塗るたれ。しょうゆに酒、砂糖、みりん等を加えたものがある。収載食品は、本みりんとこいくちしょうゆを合わせ加熱したものである。原材料配合割合は、本みりん126、こいくちしょうゆ45。

表4に「成分表2015(七訂)」で新規収載のしょうゆ3食品について、食品名と食塩相当量を示しました。成分表2015の「こいくちしょうゆ」 の食塩相当量に比べ、どのくらい減塩されているかを示しました。3食品とも「こいくちしょうゆ」に比べ、約1/2の食塩相当量です。

表4 成分表2015(七訂)で追加されたしょうゆ類の食塩相当量とこいくちしょうゆに比べての減塩率(100gあたり)

*減塩率(%)= 100 - しょうゆの食塩相当量 ÷ こいくちしょうゆの食塩相当量(14.5)g × 100

6)「成分表2020(増補2023、八訂)」:「うすくちしょうゆ 低塩」 も収載

「成分表2020(八訂)」では、しょうゆ類は「成分表2015(七訂)」の収載食品に加え、「うすくちしょうゆ 低塩」が追加されました(表5)。

  • 「うすくちしょうゆ 低塩」とは

    通常のうすくちしょうゆに比べて、食塩相当量が80 %以下のもので、食品表示法の規定に基づく表示があるもの。しょうゆの表示に関する公正競争規約では「低塩」のほかに、「うす塩」、「あさ塩」あるいは「あま塩」を規定している。成分表の収載値は、「低塩」と表示されている製品3点と「減塩」と表示されている製品1点を試料とした分析値に基づく値。ただし、ナトリウムは、「低塩」のみの成分値で推計した値。

「成分表2020(八訂)」では、「こいくちしょうゆ 減塩」は通常の「こいくちしょうゆ」に比べ43%の減塩「うすくちしょうゆ 低塩」は、通常のうすくちしょうゆに比べ20%の減塩の食品です。「うすくちしょうゆ」は減塩製品の流通量よりも、低塩の流通量が多いため,この食品の収載になっています。

なお、「うすくちしょうゆ」以外の収載食品(8食品)の食塩相当量は、成分表2015(五訂成分表および成分表2010も)と同じ値です。したがって、五訂成分表が公表された2000年~現在まで、常用されるしょうゆの食塩相当量は、この値であることがわかります。

表5 「成分表2020(八訂)」収載のしょうゆ(食塩相当量:100gあたり)

*こいくちしょうゆ 減塩:「成分表2015(七訂)」の「減塩しょうゆ こいくち」を名称変更したもの。成分値は算出方法の変更等により若干異なる栄養素があるもののほぼ同じ。

 

 

7)「しょうゆ」をどう栄養計算するか

通常のしょうゆ:利用する「しょうゆ」の食塩相当量を確認しましょう

通常のしょうゆの食塩相当量は、初版の成分表の18gからみると、「こいくちしょうゆ」で19%、「うすくちしょうゆ」で11%、「たまりしょうゆ」で28%、「さいしこみしょうゆ」で31%、「しろしょうゆ」で21%も減塩されています。そのため、「四訂成分表」や「五訂成分表」が公表された時点で、これまでと同じ量のしょうゆを料理に使っていた場合、自然に少しだけ減塩できていたといえます。

しょうゆの食塩相当量は、製品により成分表収載値と異なる場合もあるので、実際に利用する「しょうゆ」の食塩相当量を表示で確認し、それを栄養計算に使いましょう

 

減塩しょうゆ:多様な減塩しょうゆがあります 

「減塩しょうゆ」は、各社の努力により多様な製品が販売されています。たとえば、「こいくちしょうゆ」では、成分表の減塩しょうゆよりも減塩されている「食塩相当量50%カット」製品、「食塩相当量66%カット」製品も販売されています。しょうゆが調味料の主となる料理には、減塩のためにこれらのしょうゆを利用するのもよさそうです。

食塩を制限される食生活にならないためにも、日々の食生活で食塩の摂取量に留意することは重要です。おいしい味つけのまま、食塩の摂取量を減らすくふうを行なうために、減塩しょうゆをじょうずに活用しませんか。さまざまなしょうゆの情報を得て、試食する機会を利用し、色、香り、味や風味を観察し、どんな料理に利用するとよさそうかなどを考えてみませんか。使う場合には、栄養計算には、表示されている成分値を用いましょう。



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香川明夫/監修

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