渡邊智子 学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長
わたなべともこ●東京栄養食糧専門学校校長。医学博士。千葉県立衛生短期大学、千葉県立保健医療大学、淑徳大学を経て現職。千葉県立保健医療大学名誉教授、千葉県学校保健学会理事長、産業栄養指導者会会長。文部科学省による日本食品標準成分表の策定に食品成分委員会委員等として30年にわたり携わり、成分表活用の研究・提言を行なう。千葉県食育推進県民協議会委員として千葉県の食育ツール(グー・パー食生活ガイドブック等)の開発・普及も行なっている。『八訂食品成分表2026』解説・協力(女子栄養大学出版部)。著書に『これだけは知っておきたい!「食品成分表」と「栄養計算」のきほん』(講談社)ほか。
食物繊維の量は健康づくりに欠かせない重要な指標ですが、その値は用いる基準や成分表によって異なることがあります。
野菜や果物の摂取量を増やす目的の1つは、これらが食物繊維の重要な供給源であるためです。献立作成を担当している方々は、食物繊維量が「日本人の食事摂取基準」に基づき設定された「給与目標量」にできるだけ沿うように、日々くふうされていることと思います。
多くの現場では「成分表八訂増補2023」を使って食物繊維の栄養計算を行っています。しかし、その値を「日本人の食事摂取基準(2025年版)」に基づく「給与目標量」と比較することに、違和感を覚える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実際、この2つは単純には比較できません。ここでは、その理由と対応の考え方を整理します。
1)「成分表八訂増補2023」の食物繊維
2つの分析方法の値が1列に並んでいる
「成分表八訂増補2023」では、食物繊維の分析に
- 従来の方法(プロスキー変法)
- 新しい方法(AOAC 2011.25 法)
の2種類が用いられています。
新しい方法では、従来法では測定できなかった「低分子量水溶性食物繊維」も測定できます。
そのため、同じ食品を測定しても
従来法による値 < 新しい方法による値
となります。新しい方法のほうが、より真値に近くなります。
図1 従来の方法(プロスキー変法)による食物繊維と新しい方法(AOAC 2011.25 法)による食物繊維
食品によってどの方法の値が載っているかが異なる
「成分表八訂増補2023」には、
- 新しい方法(AOAC 2011.25 法)で分析した食品
- 従来の方法(プロスキー変法)でのみ分析されている食品
の両方が混在しています。
新しい方法の値がある場合はそれが優先的に収載され、
ない場合は従来法の値が掲載されています。
このため、「成分表八訂増補2023」の食物繊維量は、食品によってプロスキー変法の値であったり、AOAC 2011.25 法の値であったりと混在しています。本来であれば別の列として整理されているとわかりやすいのですが、現状は同じ欄にまとめて記載されています。
なお、新しい方法で分析された食品は備考欄に 「食物繊維:AOAC 2011.25 法」 と明記されています(女子栄養大学出版部が刊行している「食品成分表」では青文字で示されているため見つけやすくなっています。また、プロスキー変法の列も併記されています)。
2つの方法の食物繊維の値を比べたい場合
1つの食品に対して2つの分析値があるのであれば、両者を比較してみたくなるのは自然なことです。炭水化物成分表の「別表1(可食部100g当たりの食物繊維成分表)」では、従来の方法と新しい方法の両方の値を確認できる食品があります。表1に、そのさいに用いられる日本食品標準成分表の表頭を示しました。
しかし、すべての食品について両方の方法の分析値が収載されているわけではありません。
表2に、どの食品にどの方法の値が掲載されているか、そのルールをまとめました。
値の違いが生じる理由
2つの方法による値の違いについて、AOAC 2011.25法は、従来法では定量できなかった低分子量水溶性食物繊維が定量できるため、より真値に近いとされています。そのため、食品成分表では従来法の値を新しい方法の値へ順次置き換える取り組みが進められています。
まず、総でん粉量が1%以上である食品(穀類、いも類、でん粉類、菓子類など)が優先的に再分析されています。
総でん粉量が1%以上を基準とした理由は次のとおりです。
・難消化性でん粉と難消化性オリゴ糖の両方を含まない食品は、再分析する必要性が低い。
・難消化性でん粉の影響が少ない食品では、従来法の不溶性食物繊維(IDF)・水溶性食物繊維(SDF)の値をそのまま活用でき、必要に応じて新しい方法での低分子量水溶性食物繊維(SDFS)の追加分析も可能。
このため、野菜類・果実類・きのこ類・藻類などについては、従来法の値を新しい方法の値に準じて利用しても大きな問題はないと考えられています。
2)「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の食物繊維
食物繊維の目標量を策定するための食物繊維分析方法
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、食物繊維に目標量が設定されています。しかし、その目標量の策定に用いられた成分表は「成分表2020年版(八訂)」や「成分表八訂増補2023」ではありません。つまり、「2025年版」策定時の食物繊維分析法は従来法であり、新しい分析法とは異なります。
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の食物繊維量を目標に給与量を設定しつつ、一方で「成分表八訂増補2023」で計算した食物繊維量を比較すると、違和感や検討の必要性を感じる方も多いことでしょう。
食物繊維の目標量
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」における食物繊維の目標量を表3に示しました。
表3 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の食物繊維の基準値 (g/日)
この値は、「少なくとも1日あたり25g摂取してほしい」という基準と、国民健康・栄養調査の現状をふまえて設定されています(詳細は「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書p134-137を参照してください)。
したがって、参照体位(食事摂取基準が想定する標準体格の成人)の方であれば、1日25g以上の摂取を目指していただきたい栄養素です。
3)栄養管理における計算についての提案
「成分表八訂増補2023」を使った栄養計算結果と、「日本人の食事摂取基準(2025年版)」に基づく食物繊維給与目標量の関係
比較すると食物繊維はどうなるか
前述のとおり、「成分表八訂増補2023」では、穀類・いも及びでんぷん類の主要な食品について、新しい分析法による値が採用されており、これらは従来法よりも高い傾向にあります。
そのため、成分表2020(八訂)以降の成分表を用いて算出した食物繊維量は、成分表2015(七訂)を用いた場合より高く算出されることが多いのです。
同じ献立であっても、使用する成分表によって値が変わってしまうため、単純には比較できない複雑さを感じるところでもあります。
対応を考えてみる
以下の2つの対応案が考えられます。
①食物繊維成分表の従来法(プロスキー変法)の値を使う
メリット
- 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定時と同じ分析方法を使用できるため、給与目標量との比較が適切に行える
デメリット
- 従来法の値を栄養計算システムに組み込む手間がかかる
- 成分表2020および増補2023の新規食品には対応できない
②給与目標量を「1日当たり25g以上」という基準に基づき設定する
メリット
- 成分表八訂増補2023をそのまま使用して通常の栄養計算ができる
デメリット
- 特段のデメリットはない
まとめ
食物繊維は、多くの生活習慣病の発症率および死亡率と関連することが報告されています。特に、食物繊維不足が生活習慣病の発症に関連するという研究結果が多く示されています。
まずは 「1日25g以上」 の摂取を目標にしてみませんか。
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香川明夫/監修
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