食品成分表
連載【16】 「『成分表2020年版(八訂)』のエネルギー値やエネルギー産生栄養素のどの数値を使えばよいのか」とお困りの皆さんへ
渡邊智子
学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長
「日本食品標準成分表2020版(八訂)」では、エネルギー値の計算方法が変更になったことと(新しい計算方法によるエネルギー値は本表に、従来の方法によるエネルギー値は資料に収載されています)、たんぱく質成分群、脂質成分群など、主要なエネルギー産生成分にいくつかの成分が収載されていることから、業務では、どの数値を選んでどう使えばよいのか苦慮しているかたが多いようです。
「成分表のエネルギー値は、しばらく使わない」という声も聞こえてきますが、「日本食品標準成分表2020版(八訂)」(文部科学省)の成分値は、最新の食品成分データベースなので、この成分表を使って栄養価計算を行なうことをおすすめします。この成分表を使う場合は、できるだけ、新しいエネルギーとエネルギー産生成分を使っていきましょう。
成分表2020年版(八訂)では、科学的根拠に基づく、確からしい「エネルギー値」の計算を行なっています。成分表2015年版(七訂)で行なっていたエネルギー計算も参考値として本表編の資料として収載されていますが、成分表2020年版(八訂)を使う場合の第一優先のエネルギー値は、本表に載っている値です。
では、成分表2020年版(八訂)のエネルギーを使う場合には、たんぱく質、脂質、炭水化物はどれを選択すればよいでしょうか。
成分表2020年版(八訂)の表頭をみてみましょう。表1に成分表2020年版(八訂)の表頭(エネルギーに関する成分を抜粋)を抜粋しました。エネルギーの隣には、たんぱく質群、脂質群、炭水化物群があります。
エネルギー計算に用いた成分
成分表2020年版(八訂)のエネルギー値は、原則として下記の成分を用いて計算しています。
・たんぱく質群:アミノ酸組成によるたんぱく質
・脂質群:脂肪酸のトリアシルグルセロール当量
・炭水化物群:利用可能炭水化物群の利用可能炭水化物(単糖当量)&食物繊維総量&糖アルコール
・有機酸
・アルコール
これらの成分は、それぞれの成分群の左に配置されています。
表1 成分表2020年版(八訂)の表頭(エネルギーに関する成分)
次に、これらの成分のエネルギー計算への利用について、原則以外の場合を見てみましょう。
たんぱく質群のアミノ酸組成によるたんぱく質、脂質群の脂肪酸のトリアシルグルセロール当量の分析を行なわなかった場合は、収載値が「-」となっています。この場合は、下記の値で計算しています。
・たんぱく質群:たんぱく質
・脂質群:脂質
この青字の成分は、成分表2015年版(七訂)のエネルギー計算で用いていた値です。
炭水化物は選択が複雑ですが・・・
・エネルギー計算に使う値は「*」のある項目
炭水化物群の利用可能炭水化物群の「利用可能炭水化物(単糖当量)」については、上記では、原則として利用と記載しましたが、以下のような方法でこの成分の値が、エネルギー計算に用いることに適するかどうかを判断し、適さないと判断した場合は、分析値に基づく収載値があっても、差引き法による利用可能炭水化物の値を用いています。
適するか適さないかの判断は、「利用可能炭水化物(単糖当量)」ではなく、「利用可能炭水化物(質量計)」で行ないます。
一般成分等(アミノ酸組成によるたんぱく質+脂肪酸のトリアシルグリセロール当量+利用可能炭水化物(質量計)+食物繊維総量+糖アルコール+有機酸+アルコール+灰分+硝酸イオン+ポリフェノール+カフェイン+テオブロミン+加熱により発生する二酸化炭素等
の質量の合計を、可食部100gから水分を除いた乾物量で除した値を算出します。
その値を判断のための評価指標(乾物量の不確かさの適用範囲をHorwitz式により設定)により、判断しています。
許容範囲であれば、「利用可能炭水化物(単糖当量)」を用いてエネルギー計算を行ないます。許容範囲外であれば、「利用可能炭水化物(単糖当量)」ではなく、差引き法による利用可能炭水化物を用いてエネルギー量を計算しています。
「利用可能炭水化物(単糖当量)」と、「差引き法による利用可能炭水化物」のどちらをエネルギー計算に使ったかは、数値の隣に*がついているのでわかります。
また、糖類の分析を行なっていない食品は、「利用可能炭水化物(単糖当量)」の欄は「-」なので、当然、差し引き法による利用可能炭水化物を使います。
・炭水化物の摂取量の計算に使う項目は「利用可能炭水化物(質量計)」か「差引き法による利用可能炭水化物」
利用可能炭水化物の摂取量の計算は、エネルギー計算に「利用可能炭水化物(単糖当量)」を使った場合は、利用可能炭水化物の質量である「利用可能炭水化物(質量計)」を使います。一方、エネルギー計算に「差し引き法による利用可能炭水化物」を使った場合は、摂取量は、その値を使います。
成分表2020年版(八訂)のエネルギーと、そのエネルギーを算出した、たんぱく質群、脂質群、炭水化物群の成分は、セットです。それぞれ、成分表2015年版(七訂)のエネルギーと、そのエネルギーを算出したたんぱく質群、脂質群、炭水化物群の成分よりも、科学的な確からしい値です。
そこで、これらの値をつかって、栄養価計算をすることがおすすめです。
ところで、成分表2020年版(八訂)のエネルギー値とそれに関連するエネルギー産生栄養素量を栄養価計算に使う場合に困ることがあるようです。
成分表2020年版(八訂)の本表は、エネルギーは、1行に示されているので問題なく計算できます。しかし、たんぱく質群、脂質群、利用可能炭水化物群は、食品により列(成分項目)を移動して値を選択し、計算する必要があります。
たんぱく質群は、アミノ酸組成によるたんぱく質が 「-」 の場合に、隣の列のたんぱく質の値を、脂質群は、脂肪酸のトリアシルグルセロール当量が「-」 の場合に、2つ隣の列の脂質の値を摂取量の計算に使います。
利用可能炭水化物群は、さらに複雑です。利用可能炭水化物(単糖当量)に*がある場合(エネルギー計算に使っている)は、利用可能炭水化物(質量計)を使い、差し引き法による利用可能炭水化物に*がある場合(エネルギー計算に使っている)は、この値を摂取量の計算に使います。
いずれにせよ、エネルギー計算に使う成分が1行になっていません!
そこで、ユーザーのために、この問題を解決した表頭の作成が必要になります。
表2は、成分表2020年版(八訂)の新しい計算方法のエネルギー値と、組成成分から算出したたんぱく質、脂質、利用炭水化物の摂取量を算出するための表頭の提案です。
表2 成分表2020年版(八訂)のエネルギーとそれに関する摂取量を計算するための 成分項目
アミノ酸組成によるたんぱく質、脂肪酸のトリアシルグリセロール当量、利用可能炭水化物(質量計算)の項目には、エネルギー計算で使った値 [利用可能炭水化物は、上述したようにエネルギー値に使った成分の*を確認し、利用可能炭水化物 (単糖当量) に*があった場合が (質量計) の値です。それ以外は、差し引き法による利用可能炭水化物の値が入ります]をすべての食品について収載してあると便利です。
なお、項目名にもともと値があれば、その値は組成成分の分析値に基づく値(つまり、確からしい値)です。項目名の成分以外の値を項目に入れた場合は、その値は組成成分の分析値を推定した値です。
成分表2020年版(八訂)のエネルギー計算では、このように項目名以外の成分を用いた場合は、組成成分に基づく値の推定値として利用しています。
この成分表があると、成分表2020年版(八訂)のエネルギーとそれに関連する成分を使った栄養価計算がスムーズにできます。また、栄養価計算ソフトも、当然、この表を使ったものが必要です。この編集を、成分表を作成している民間出版社に行っていただき、販売してくださることを期待しています。
したがって、表2は、成分表2020の新しいエネルギー量とそれにかかわるエネルギー産生栄養素の摂取量を把握するために特化した成分項目といえます(便宜上、水分も加えてあります)。
なお、利用可能炭水化物は、単糖当量を使ってエネルギー値を計算しますが、利用可能炭水化物の摂取量は質量計で計算する場合と、差し引き法による利用可能炭水化物を用いる場合があることを理解しておきましょう。
また、この表頭には、「日本人の食事摂取基準2020年版」と比べるために必要な脂肪酸を加えています。
ユーザーの皆様は、この成分表に基づく栄養計算ソフトが入手できたら、これまでの献立を使って栄養価計算をしてみましょう。
現時点で、給食現場などの実務で使う成分表
成分表2020年版(八訂)の取り扱いへの提案
文科省版の成分表2020年版(八訂)を使って栄養価計算を行なうことは、可能ですが、上述した理由で、手間がかかり、計算ミスが発生する可能性が高そうです。また、現時点では、上述した編集を行なった成分表2020年版(八訂)の栄養価計算ソフトは、見あたりません。※
そこで、給食等の実務では、成分表2015年版(七訂)をおもに使ってはどうでしょうか。また、成分表2020年版(八訂)の白飯の食物繊維など、利用可能な成分値については、その値を変更し登録して利用することもできます。2022年4月までには、上述した状況が整うと思いますので、区切りのよい時点で、成分表2020年版(八訂)に切り替えることをおすすめします。
一方、喫食者のために、確からしいエネルギー値、無機質やビタミンの値を使って栄養計算をしたい場合は、成分表2020年版(八訂)を使って栄養価計算をしましょう。その場合は、編集された成分表や栄養価計算ソフトが入手できるまでは、エネルギーは新しいエネルギー値を、たんぱく質群はたんぱく質、脂質群は脂質、炭水化物群は炭水化物を、便宜上、使いましょう
※編集部注 :5月下旬に公開予定の女子栄養大学出版部の『八訂食品成分表2021』の付録の栄養計算ソフトでは、表2の項目の栄養計算ができます。すなわち、エネルギー計算のための利用可能炭水化物を収載しています。
<お知らせ>
5月23日(日)10時~11時40分
渡邊智子さんを講師にお迎えしてオンラインセミナーを開催します。
日本食品標準成分表2020年版(八訂)を活用しよう!
~混乱しがちな項目の見方と使い方~
詳細はこちらからお願いいたします。
関連書籍
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私たちが日ごろ食べている食品にはどんな栄養素がどのくらい含まれているのでしょうか? 「食品成分表」はそのデータ集であり、女子栄養大学出版部では食と健康に関する最新資料とともに「本表編」と「資料編」の2分冊にとりまとめて毎年出版しています。