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【連載】調理とおいしさの考察――1⃣ひとくちに“みりん”といっても(前半)

栄養学新刊

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松本仲子 女子栄養大学名誉教授

 

松本仲子監修『調理の基本 まるわかり便利帳』を、女子栄養大学出版部より2021年4月に上梓しました。本書は、食材のこと、下ごしらえ、切り方、味つけ、調理法から、栄養価計算の方法、気になるエネルギーと塩分コントロールの基礎知識まで、調理の基本がまるっとわかる一冊です。

本書監修者の松本先生に、長年の研究にまつわるエピソードを交えて、調理のおもしろさを語っていただく連載がスタートします。まずはみりんのお話から。

 

■その昔、みりんは高価なお酒でした

みりんの起源は、中国伝来説や日本発生説など諸説があってはっきりしません。

日本での製造が始まったのは、室町後期の大阪で、江戸には下り物(くだりもの)として運ばれ、清酒の2~3倍と高価でした。

千葉県の流山市で生産が始まるのは、江戸時代も後期になってからのことです。

江戸時代は、みりんに焼酎を加えた甘くて口あたりのよい酒を「柳蔭」(やなぎかげ)あるいは「本直し」(ほんなおし)と呼び、飲みものとして流行しました。

みりんが飲料としてだけでなく、調味料として料理本に見られるのは、『萬寳料理秘密箱』(まんぼうりょうりひみつばこ)に、寛政7(1795)年、「赤貝和煮」の調理法として「赤貝を……始にみりん酒にてとろゝゝとたき のちに醤油と酒とにて煎申候」とあるのが、煮物に使われた古い記録とされています。

その後、江戸時代の料理本ではみりんが頻繁に使われます。

一方、家庭ではどうだったのでしょう。

昭和10(1935)年頃の女学校の調理実習書によると、きんとんにはみりんが使われていますが、黒豆や酢の物には砂糖と清酒が使われているところからすると、まだ一般的な調味料にはなっていなかったのでしょう。

 

■みりんの類似品が出現

家庭調理に、日常の調味料としてみりんが使われるようになるのは、敗戦後のこと。

高度経済成長で食生活が豊かになり、テレビでも料理番組が放送されるようになると、需要が高まっていきましたが、みりんはアルコール飲料のため、酒税法の関係からスーパーマーケットでの販売ができませんでした。

そこで、みりん類似品が出現するのです。

酒類であるために酒税がかかるのであれば、飲酒できないものにすればよいということで、アルコールを含まないものと、塩味をつけるものの二通りの類似品が売り出されました。

スーパーで手軽に安価に購入できるために、消費量は一気に伸びていきました。

そうこうするうちに、「原料や製法が異なるものを“みりん”と称するのはおかしいのではないか」と公正取引委員会に申し出があり、その可否を判定することになりました。

■類似品を検証しました

ちょうどそのころは、“じゃがいもでんぷん”なのに“片栗粉”として販売するのは詐称ではないかなど、偽装表示が話題になっていたころでした。公正取引委員会では、当時の大蔵省醸造試験所で成分を、女子栄養大学で調理の観点から検討することになりました。

女子栄養大学では、官能評価を、魚の照焼き、そばつゆ、煎鳥(いりどり)を試料として、著名な料理研究家や本学の教員などあわせて20名ほどのパネルで行いました。

結果は、「調査項目にほとんど有意差がみられず」。その旨を委員会に報告しました。

 

■みりんを分類してみると

現在の食品成分表では、この二通りの類似品を、“みりん風調味料”と“料理酒”として掲出されています。

また、みりん類似調味料が広く使われるようになると、これを単に“みりん”と呼ぶのが普通になり、これまでとの区分が不明瞭になってきたために、本来のみりんを“本みりん”と呼ぶようになりました。

原材料や製法に違いがあり、アルコール分を除いたものは生臭みを消す効果が弱く、また、食塩が添加されているものは、きんとんのように塩味系調味料を使わない料理・菓子では、仕上がりに塩味が効きすぎることがありますから注意します。

 

松本仲子(まつもと なかこ)
女子栄養大学名誉教授。1936年旧・京城(現ソウル)生まれ。女子栄養大学大学院教授、桐生大学教授を歴任後、現在、聖徳大学・大学院兼任講師として教鞭をとる。「調理法の簡略化が食味に及ぼす影響」などの研究を行う。女子栄養大学出版部より、2021年4月に『調理の基本 まるわかり便利帳』を監修・出版。

  • 松本仲子さんが監修した新刊のご紹介

『調理の基本 まるわかり便利帳』

■松本 仲子/監修
■978-4-7895-0523-9
■B5判変型 182mm×210mm 192ページ
■定価:1,760円(本体1,600円+税)
■発行年月:2021年4月

 

 

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