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食品成分表

■連載【3】奥が深い!「日本食品標準成分表」の「標準」の意味

知れば知るほどおもしろい!「食品成分表」渡邊智子栄養学食品成分表

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「標準」がついているとなにが違う?

渡邊智子
淑徳大学看護栄養学部教授/文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会食品成分委員会主査代理

日本の「食品成分表」は、文部科学省が公表していて、「日本食品標準成分表」が正式名称です。
(編集部注:女子栄養大学出版部の『食品成分表』は「日本食品標準成分表」のデータを見やすいように編集したり解説や資料を加えたりして書籍化したものです)

「標準」は、『デジタル大辞泉』では、次のように記されています。

1 判断のよりどころや行動の目安となるもの。基準。

2 平均的であること。また、その度合い・数値。並み。

 

つまり、日本人が食べている平均的な食品について、平均的な成分値が収載されていると解釈できます。そこで、食品の栄養表示では、「食品成分表」に収載されている成分値を判断基準として、食品の評価も行なわれています(たとえば、減塩しょうゆや減塩みそがそうです。「食品成分表」の成分値を基準として、しょうゆは20%以上、みそは15%以上ナトリウムを低減すると、「減塩」と表示することができます)。

 

「標準」の言葉の重み(?)は、「食品成分表」に収載する食品の選定や、分析方法、分析結果の評価に大きく影響しています。最も重要なことは、標準的な食品を選択することです。そのためには、植物性食品であれば、産地、品種、流通量に配慮していくつかの試料を選択することになります。

食べ物の「標準」は、むずかしい

日本人の主食の米を例にお話しします。

米の品種には、漢字、ひらがな、カタカナの名前があることをご存じですか。1991年までは、国の機関で育成した品種はカタカナ(例:コシヒカリ)、都道府県が育成した品種はひらがなまたは漢字の名前(例:あきたこまち)と決まっていたためです。米の品種は約900品種もあり、主食用として多く作られている品種は約300品種もあります(参考 公益社団法人米穀安定供給確保支援機構情報部

さて、日本人が主として食べている品種も変化してきました。

四訂成分表(1982年公表)のころは「日本晴」(にっぽんばれと読みます。愛知県で育成されました)、五訂成分表(2000年公表)のころは「コシヒカリ」がそれぞれ圧倒的なシェアでした。平成30年ではコシヒカリ35%、ひとめぼれ9.2%、ヒノヒカリ8.6%、あきたこまち6.8%の作付け割合です。詳細な内訳は未公表ですが、成分表2015年版(七訂)では、コシヒカリに加えほかの品種も試料としています。

ごはんと米
よく消費されている米が時代によって変化しているので、成分表の分析に用いる試料の米も変化している。成分表に用いられた試料は、その時代の「標準」を反映することを目指し選定されている。

日本人の主菜としてかかせない魚についても考えてみましょう。

秋の味覚……サンマがおいしい季節です。ここ数年は水揚げが少なく、生サンマは高級魚になりつつあるそうです。水揚げ量が多いときと少ないときでは、サンマの標準は同じでしょうか。違っているのであれば、「食品成分表」に大漁のときのサンマ、不漁のときのサンマの2食品に分けて収載するか、文科省の「日本食品標準成分表」の第3章「食品群別留意点」に、ぜひそのことを記載してほしいとユーザーとしては希望します(「食品群別留意点」はとても有益な情報がつまっています。ぜひごらんください!)。

大漁のときと不漁のときの違いについては、現在(七訂)は触れられていない。一方で、「食品群別留意点」の「さんま(秋刀魚)」の項には、「漁期、漁場、魚体の大小で、成分、特に脂溶性成分に大きな差異があるので、『生』の成分値は、国内6か所で水揚げされたものの分析値(2015)及び分析値に基づき決定した」と記されている。

次に、果物についても、「五訂食品成分表」策定時のエピソードをお話ししましょう。

当時、成分表の会議は、終日行なわれる場合が多々ありました(今では考えられません。なぜ、そのように長時間かかったかは、機会があればお話しします……)。

このときは、ある果実の分析結果をどうとらえるかについて、議論が盛り上がりました。というのも、県ごとに炭水化物量にかなりの相違があったので、県別に成分表に収載されると、甘さがわかりユーザーには都合がよいように思われたのです。しかし、果実類の担当の先生によると、「今年の気候で、今回の品種ならではの成分値です。来年は、気候も品種もかわるかもしれないので、県別での結果が妥当とはいえないですよ」とのことでした。まったく、その通りと思いました!

その果実とは……「みかん」。

このように、「標準」としての値が求められる「食品成分表」では、単に分析結果を公表すればいいというわけではなく、その食品の成分値がどのように揺れているかを熟知している各食品の専門家の視点が不可欠です。

「標準」の言葉がなくなれば…?

「食品成分表」から「標準」の言葉がなくなれば、「食品成分表」の試料の選択は、容易です。しかし、それでは、「食品成分表」の信頼性が減ってしまいます。

 

また、「標準」が時代とともに変化してきた食品もあるので、成分表の改訂は定期的に行なうことが必要であり、ユーザーは最新の成分表を使うべきであることがわかります。

 

ところで、「日本人の食事摂取基準」には、「標準」の言葉は含まれませんが、日本人として平均的な体位を持った人(標準的な人)を想定して、栄養素量等を示しています。

 

つまり、「食品成分表」は標準的な食品について、「食事摂取基準」は平均的な日本人について、のデータです。それは、この2つの報告書が日本人の健康な生活のために策定されているからです。

 

なお、「食品成分表」に「標準」の文字が入っている必要はないという意見もあります。それは標準の文字があってもなくても、「食品成分表」は「食事摂取基準」と同様に標準的な食品を選択し収載することが明らかなためです。また、食品の標準が変化するためでもあります。

 

ですから、標準はむずかしいといつも感じています。

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