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食品成分表

連載【19】100gあたりの成分値なのに、一般成分を合計して「ピッタリ100g」にならない食品があるのはなぜ?(前編)

知れば知るほどおもしろい!「食品成分表」渡邊智子栄養学食品成分表

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渡邊智子

学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長

「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」(以下「成分表2020年版(八訂)」)の一般成分(水分、たんぱく質、脂質、炭水化物、灰分)の合計が、「ピッタリ100g(100.0g)」の食品と、「ピッタリにならない=100g前後」の食品があります。気づいてましたか?

きっと、驚いているかたもいらっしゃると思います。少なくとも五訂成分表までは、「ピッタリ100g」になるように調整(この調整についても、機会を見つけてお伝えします)していました。

今回は、「成分表2020年版(八訂)」に、一般成分の合計がピッタリ100gになる食品と、ならない(100g前後になる)食品がある、その「理由」をご説明します。

 

ほとんどの食品で合計が「ピッタリ100g」なっている理由は…  

表1は、「成分表2020年版(八訂)」の表頭から抜粋した、ここでご説明するために必要な成分項目などです。

表1「成分表2020年版(八訂)」の表頭から必要な部分を抜粋

一般成分(表1:水分、たんぱく質、脂質、炭水化物、灰分)の合計が「ピッタリ100g(成分表では100.0g)の食品は、なぜ「ピッタリ100g」なのでしょうか。「ピッタリ100g」の食品は、炭水化物を次の1式により計算しているからです。

1式:100g-(水分+たんぱく質+脂質+灰分)g=炭水化物 g

なるほどですよね! 炭水化物を1式で求めて計算する方法は、「差引き法」と呼びます(成分表の各成分の測定方法にも記載してある、正式な方法です)。魚介類、肉類、そして卵類のうち原材料的食品を除いた食品では、炭水化物の値は「差引き法」で計算しています。

そうすると、魚介類、肉類および卵類のうち原材料的食品は、一般成分の合計が「ピッタリ100g」にならなそうなことがわかったのではないでしょうか。また、「差引き法」により炭水化物を算出した食品では、一般成分の合計値が「ピッタリ100g」になると思ったのではないでしょうか。

残念ながら、かならずしもそうはならず、「差引き法」により炭水化物を算出した食品の中にも、一般成分の合計が、100.0gにならない食品=100gを下まわる食品があります!

なぜ、どんな食品がそうなるのでしょうか。

一般成分の合計が「ピッタリ100g」なっていない食品があります。

その理由とそれに該当する食品を見てみましょう!

有機酸、アルコールやポリフェノールを含む食品は、一般成分の合計は100g以下です。

有機酸、アルコールやポリフェノールなどは、一般成分のどれにも当てはまらない成分です。そのため、「有機酸等のこれらの成分」を多く含む食品(後述します)は、「有機酸等のこれらの成分の質量」と「一般成分の合計」を合わせると、「ピッタリ100.0g」になります。

つまり、「有機酸等のこれらの成分」を含む食品の炭水化物は、1式ではなく、2式で計算されています。

2式:100g-(水分+たんぱく質+脂質+灰分+「有機酸等のこれらの成分」)g=炭水化物 g

ここで、「有機酸等のこれらの成分」と、各成分を含む主要な食品を見てみましょう。表2をご覧ください。

表2 2式の「有機酸等のこれらの成分」

成分 含有するおもな食品
有機酸(酢酸、乳酸、クエン酸など) 食酢、ワイン、ヨーグルト、レモン等
アルコール アルコール飲料
硝酸イオン 茎葉野菜類
カフェイン 茶類やコーヒー
ポリフェノール チョコレート、赤米、黒大豆
タンニンおよび 茶類やコーヒー
テオブロミン ココアやチョコレート類

 

それぞれの成分がどんな成分なのかについて興味深々かもしれませんが、今回は、表2の成分が成分表のどこに収載されているかに注目してみましょう。

「有機酸」と「アルコール」は、エネルギーを産生する成分なので、「成分表2020年版(八訂)」の表頭の成分項目に収載されています。表3をご覧ください(表1と同じ表ですが、「有機酸」と「アルコール」にを付しました)。

表3で示したに数値が入っている食品の多くは、を合計すると、100.0gの食品がほとんどです。

表3「一般成分」+有機酸+アルコールが100.0gになっている食品の収載成分項目

なお、酢酸、乳酸、クエン酸等の各有機酸の質量は、主要なものは備考欄に、詳細は「成分表2020年版(八訂)炭水化物成分表」に収載されている別表2 「可食部100 g当たりの有機酸成分表」をご覧ください(編集部注:女子栄養大学出版部の成分表では、2分冊のうち「資料編」に炭水化物成分表の別表2が収載されています)。また、有機酸とアルコールのエネルギー換算係数は、本連載第8回をご覧ください。

では、表2の「有機酸等のこれらの成分」のうち、「有機酸」と「アルコール」以外の成分(カフェインなど)の記載は、どこを見ればよいのでしょうか。表1および表3に「備考」を項目として示しましたが、そう、これらの成分の質量は、備考欄に記載してあります(備考欄には、ほかにも重要な情報が、コンパクトにたくさん記載されていますから、ぜひご覧ください)。

たとえば、表4に「成分表2020年版(八訂)」のお茶などの浸出液(飲む状態のお茶)の備考欄を転載しました。

備考欄には浸出液を作るときの温度や分量等(お茶などの出し方)とカフェインとタンニンの量が記載されています。これらのお茶等の浸出液は、一般成分の質量の合計に、備考欄の成分の質量を合わせると「ピッタリ100.0g」になります。気になるかたは計算してみましょう。

また、表4では玉露のカフェインが多いことや、玉露とコーヒーのタンニンが多いこと、玄米茶や番茶は、カフェインやタンニンが少ないことなどもわかります。

表4 「成分表2020年版(八訂)」のお茶などの備考欄

つまり、有機酸、アルコールやポリフェノール等を含む食品は、一般成分の合計は100.0g以下です。

それは、2式で炭水化物を計算するからです。「有機酸等これらの成分」を含む食品では、一般成分の合計量は、「有機酸等これらの成分」の合計質量だけ100.0gに不足しています。

なお、「有機酸等これらの成分」の合計質量は、有機酸とアルコールは表頭の成分量、ポリフェノール等は備考欄に記載の量の合計です。

ベーキングパウダーとベーキングパウダーを含む食品は、一般成分の合計は0g以下です。

ベーキングパウダーとベーキングパウダーを含むプレミックス粉は、加熱により二酸化炭素等を多量に発生させます。この二酸化炭素は、食品を膨張させる役割をします。二酸化炭素等は、一般成分のどれにも当てはまらないので、これらの食品の炭水化物も、「有機酸等これらの成分」を含む食品と同様に、次の3式により算出されています。なお、加熱による発生する二酸化炭素等の質量は備考欄に記載されています。

3式:100g-(水分+たんぱく質+脂質+灰分+加熱により発生する二酸化炭素等)g=炭水化物 g

プレミックス粉は、Prepared Mix(調製粉)の略称ですが、この名称は一般的に用いられています。小麦粉などの穀類の粉、膨張剤、調味料などを用途別にあらかじめ適切な比率に配合した調製粉です。そのため、プレミックス粉を使うと、食材をそろえて計量する手間がなく、水を加えて攪拌するだけで料理ができます。プレミックス粉は、法制上は小麦粉調製品や穀粉調製品と呼ばれています。

プレミックス粉とは、いわゆるお好み焼き粉やホットケーキミックスや天ぷら粉、から揚げ粉などのこと。ベーキングパウダーを含む。(写真はイメージです) プレミックス粉とは、いわゆるお好み焼き粉やホットケーキミックスや天ぷら粉、から揚げ粉などのこと。ベーキングパウダーを含む。(写真はイメージです)

ここで、プレミックス粉の備考欄を見てみましょう(表5)。加熱によりベーキングパウダーから発生する二酸化炭素等の質量が記載されています。この質量が多い粉は、膨らみが大きいと予測されます。また、これらの食品は、計量カップなどで計量されることもあるため、100gの容量、100mLの質量も記載されています。ほかにも、備考欄にいろいろな情報があることがわかります。

表5 「成分表2020年版(八訂)」のプレミックス粉およびベーキングパウダーの備考欄

つまり、ベーキングパウダーとベーキングパウダーを含む食品は、一般成分の合計は100.0g以下です。それは、3式で炭水化物を計算するからです。「加熱により発生する二酸化炭素等」を含む食品では、一般成分の合計量は、「加熱により発生する二酸化炭素等」の合計質量分だけ100.0gに不足しています。

まとめますと…「成分表2020年版(八訂)」では、次のような食品は、一般成分の合計が「ピッタリ100.0g」になりません。

①炭水化物を「差引き法」で計算せず、分析している食品(魚介類、肉類および卵類のうち原材料的食品)

②炭水化物を「差引き法」で計算するが、水分、たんぱく質、脂質、灰分以外にも、引き算する成分がある食品

そして、②に該当する食品は、大きく次の2つです。

・有機酸、アルコール、カフェインなどを含む食品

・加熱による発生する二酸化炭素を含む食品

ご理解いただけたでしょうか。次回は、①の炭水化物を「差引き法」で計算せず、分析している食品(魚介類、肉類および卵類のうち原材料的食品)についてご説明します。

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