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食品成分表

連載【20】100gあたりの成分値なのに、一般成分を合計して「ピッタリ100g」にならない食品があるのはなぜ?(後編)

知れば知るほどおもしろい!「食品成分表」渡邊智子栄養学食品成分表

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渡邊智子

学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長

「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」(以下「成分表2020年版(八訂)」)の一般成分(水分、たんぱく質、脂質、炭水化物、灰分)の合計が、「ピッタリ100g(100.0g)」の食品と、「ピッタリにならない=100g前後」の食品があります。

第19回では、一般成分の合計が「ピッタリ100.0g」にならない食品には

①炭水化物を「差引き法」で計算せず、分析している食品(魚介類、肉類および卵類のうち原材料的食品)

②炭水化物を「差引き法」で計算するが、水分、たんぱく質、脂質、灰分以外にも、引き算する成分がある食品)

があることを、特に②の食品について、具体的にお話ししました。

今回は、一般成分の合計が「ピッタリ100.0g」にならない食品のうち、①炭水化物を「差引き法」で計算せず、分析している食品(魚介類、肉類および卵類のうち原材料的食品)についてお話します。

 

一般成分の合計について、確認しましょう。

「一般成分の合計がピッタリ100.0gになる」ということは、表1のの成分値の合計が、100.0gになるということです。そしてその理由は、炭水化物を差引き法により算出しているからです(1式)。

1式:100g-(水分+たんぱく質+脂質+灰分)g=炭水化物 g

表1「成分表2020年版(八訂)」の表頭から抜粋

魚介類、肉類および卵類の原材料的食品は、一般成分の合計が100g前後(=100.0gにならない)です。

魚介類、肉類及び卵類の原材料的食品(いわゆる食材:魚、肉、卵など)は、一般的に、炭水化物が微量です。そのため、炭水化物の量を差引き法で求めることは、すべての成分の分析誤差が炭水化物に集約してしまうため、適当ではないとされています。

そこで、こられの食品の炭水化物は、原則として「アンスロン-硫酸法」という分析方法を行ない、全糖を分析しています。これらの食品の炭水化物は、その値を収載しています。

なお、「アンスロン-硫酸法」で分析した「炭水化物」には、ほかの食品群の炭水化物に含まれている食物繊維は含まれていません。それは、魚介類、肉類及び卵類の原材料的食品には、食物繊維は含まれていないからです。

ここで、アンスロン-硫酸法と全糖についてご説明します。

アンスロン-硫酸法と全糖

アンスロン-硫酸法は、「成分表2020年版(八訂)」の魚介類、肉類及び卵類のうち原材料的食品の炭水化物を測定する分析方法です。

この方法では、二糖類以上の糖類を加水分解により単糖類にします。その単糖類の質量を測定し、それを全糖の量とします。つまり、この方法で得た、全糖の質量は、単糖当量で示したぶどう糖の質量に相当します。

この方法を行なうことが可能な食品は、二糖類以上の糖類の構成単糖がぶどう糖のみであり、分析に影響する共存物資を含まない食品です。魚介類、肉類及び卵類のうち原材料的食品(魚、肉、卵等)は、この条件に合う食品とされています。

ここで、アンスロン-硫酸法で測定した「炭水化物」と、「利用可能炭水化物(単糖当量)」との関係を考えてみましょう。

アンスロン-硫酸法で測定した「炭水化物」と「利用可能炭水化物(単糖当量)」との関係

アンスロン-硫酸法で測定した「炭水化物」は、分析方法からもわかるように食物繊維をまったく含んでいません。ほかの食品群の差引き法による「炭水化物」は食物繊維を含んでいます。

「成分表2020年版(八訂)」では、「魚介類、肉類、卵類のうち原材料的食品のアンスロン-硫酸法による全糖の値」である「炭水化物」の収載値を、「利用可能炭水化物(単糖当量)」の推計値として収載しています。また、「利用可能炭水化物量(質量計)」は、アンスロン-硫酸法の値である「炭水化物」の収載値に0.9を乗じた値を推定値として収載しています。

このように、差引きで出した値ではないので、これらの食品の一般成分の合計は、ピッタリ100gにはなりません。100.0g前後です。これらの食品の炭水化物をみると、微量な値が収載されているので、納得できるのではないでしょうか。

第19回と今回とで、「成分表2020年版(八訂)」の一般成分の合計が「ピッタリ100.0g」になる食品と、そうでない食品があること、そして、その理由をご説明しました。

ご理解いただけたでしょうか。

Q 砂糖100gあたりの「利用可能炭水化物(単糖当量)」が100gより多いのはなぜ? 

読者から寄せられたご質問にお答えしましょう。

「成分表2020年版(八訂)」の「利用可能炭水化物(単糖当量)」については、100gを超える値が収載されている食品があります。それは、「利用可能炭水化物(単糖当量)」が質量ではないためです。

「利用可能炭水化物(単糖当量)」は、利用可能炭水化物(でん粉、単糖類、二糖類、80%エタノールに可溶性のマルトデキストリン及びマルトトリオース等のオリゴ糖類)のそれぞれの質量を単糖に換算した量の総和です。

にそれぞれの利用可能炭水化物の質量を単糖当量に計算するための係数を示しました。各利用可能炭水化物の質量に係数を乗じ、それを合計すると「利用可能炭水化物(単糖当量)」が算出できます。

表 質量から単糖当量を計算するための係数

でん粉 1.10
(単糖類) (1.0)
二糖類 1.05
80 %エタノール可溶性のマルトデキストリン 1.10
マルトトリオース等のオリゴ糖類 1.07

からわかるように、各利用可能炭水化物の質量を単糖当量に計算する係数は、1以上です。それは、二糖類や多糖類が、単糖類から水がとれて結合しているためです。

そのため、各利用可能炭水化物の質量を単糖に換算すると、その値は増加し、その結果、100.0gを超える食品があります。

一方、「利用可能炭水化物(質量計)」は、食品100.0gあたりの利用可能炭水化物(でん粉、単糖類、二糖類、80%エタノールに可溶性のマルトデキストリン及びマルトトリオース等のオリゴ糖類)のそれぞれの質量の総和なので、100.0gを超える場合はありません。

それぞれの利用炭水化物がどんなものであるかは、第21回で、お話しします。

 

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