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食品成分表

連載【21】「成分表2020年版(八訂)」の「炭水化物」と3種の「利用可能炭水化物」はこう使いましょう!(前編)

知れば知るほどおもしろい!「食品成分表」渡邊智子栄養学食品成分表

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渡邊智子 学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長

え/佐々木一澄

「成分表2020年版(八訂)」は、文部科学省のサイトに2020年12月25日公表され、冊子版は2021年2月5日に発売されました。各出版社からも、これに準拠した、くふうされた成分表が発売されています。夏休みの間に「成分表2020年版(八訂)」の理解を深めようとお考えの方も多いのではないでしょうか。

「成分表2020年版(八訂)」の概要や使い方につてお話しさせていただく機会がありますが、定番の質問の1つに「炭水化物群」についての質問があります。特に、「3つの利用可能炭水化物について、どう違うのか、どう使えばよいのかわからず困っています」というものが多いです。そこで、この3つの利用可能炭水化物について2回に分けてご説明します。

「成分表2020年版(八訂)」の『成分項目群「炭水化物」』を見てみましょう。「成分表2020年版(八訂)」の、『成分項目群「炭水化物」』を表1に抜粋しました。本稿での説明がわかりやすいように、成分名にアルファベッドをふりました。

表1「成分表2020年版(八訂)」の炭水化物の成分項目群

「成分表2020年版(八訂)」の「炭水化物群」は、従来の成分項目であるFの「炭水化物」に加え、エネルギーとしての利用性に応じて炭水化物を細分化し、「利用可能炭水化物」(A~C)、「食物繊維」(D)および「糖アルコール」(E)の成分項目が収載されています。

Fの「炭水化物」がどのように定められているかについては第19回および第20回で説明しました。今回はそれ以外の成分項目についてご説明します。

 

1)「炭水化物」と「利用可能炭水化物」の関係

「炭水化物」(F)と、AからCの「利用可能炭水化物」は同じではありません。「炭水化物」(F)は、「利用可能炭水化物」、「食物繊維総量」および「糖アルコール」で構成されています。つまり、AからCの「利用可能炭水化物」は「炭水化物(F)」の一部です。

例外として、魚介類、肉類、卵類の原材料的食品のように、「食物繊維総量」および「糖アルコール」をほとんど含まない食品は「炭水化物」が全糖であり、その値と「利用可能炭水化物(単糖当量)」の値が同じです(第20回をご覧ください)。

 

2)「利用可能炭水化物」は、3種類あります!

「利用可能炭水化物」には、「利用可能炭水化物(単糖当量)」(A)、「利用可能炭水化物(質量計)」(B)、「差引き法による利用可能炭水化物」(C)の3種類が収載されています。

3種類は、「利用可能炭水化物」を異なる定義で記載している数値です。そのため、3種類を比べるとよく似た数値です。当然のことですが、合計してはいけません!

「利用可能炭水化物(単糖当量)」(A)および「利用可能炭水化物(質量計)」(B)は、おもに分析値に基づく値です。それも、同じ分析方法です。一方、「差引き法による利用可能炭水化物」(C)は計算により算出する値です。

なお、質量は「成分表2015年版(七訂)」では重量と記載していましたが、「成分表2020年版(八訂)」では、それを質量と記載することにしています。その理由は、 国際単位系(SI)では、単位記号に g を用いる基本量は質量だからです。重量は、物理学でいうところの“力”と同じ性質の量を示し、質量と重力加速度の積を意味します。

3)「利用可能炭水化物(単糖当量)」と「利用可能炭水化物(質量計)」の違い

「利用可能炭水化物(単糖当量)」と「利用可能炭水化物(質量計)」は、(単糖当量)と(質量計)だけが異なっている成分項目なので、このワードが肝心なのがわかります。この2つの成分項目は、同じ方法で測定(分析)した結果を、異なる表記で示した値です!

どういうことなのかを見てみましょう。

この2つの値を得るための利用可能炭水化物の測定方法は、「食品に含まれるでん粉、ぶどう糖、果糖、ガラクトース、しょ糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、イソマルトース、80%エタノールに可溶性のマルトデキストリン及びマルトトリオース等のオリゴ糖類等を、分離して各糖類の質量を測定」する方法です。この測定結果は、各糖類の個別の質量です。

「利用可能炭水化物(単糖当量)」(A)と「利用可能炭水化物(質量計)」(B)は、この各糖類の質量を、異なる方法で示した合計した値です。その方法を表2に示しました。

表2「利用可能炭水化物(単糖当量)」と「利用可能炭水化物(質量計)」

「利用可能炭水化物(単糖当量)」(A) 各糖類の質量を、単糖に換算し合計した値
「利用可能炭水化物(質量計)」(B) 各糖類の質量を合計した値

 

つまり、この2つの値は、同じ分析方法の結果である各糖類の質量を、異なる定義(単糖当量あるいは質量)で示している値です。これは、緑黄色野菜のβ-カロテンを測定し、測定結果である「質量」と、質量をレチノール当量に換算した「レチノール当量」で示すような関係です。

2つの成分項目は同じ分析方法で測定した値であるため両者は相互に計算することができます。なお、2つの成分とも推計値が収載されているも食品もあります。

次に、「利用可能炭水化物(単糖当量)」(A)を各糖類の質量から計算する方法を見てみましょう。

 

4)「利用可能炭水化物(単糖当量)」を各糖類の質量から計算する方法

でん粉及び二糖類の質量を単糖当量へ換算するには、分子量(式量)に基づく単糖当量への換算係数を使います。

換算係数を①~③で計算できます。③で得た値は科学的に適切な値です。

 六炭糖の単糖類(ぶどう糖、果糖、ガラクトース)の分子量180.16

六炭糖のみからなる二糖類(しょ糖、麦芽糖、乳糖及、トレハロース、イソマルトース)の分子量342.30

水の分子量18.02 とします。

でん粉中のぶどう糖残基の式量は

180.16 - 18.02 = 162.14 と計算できます。

①と②から、

二糖類の質量を単糖当量に換算するための係数は

(180.16 + 180.16) ÷ 342.30 = 1.052…  と計算できます。

でん粉の質量を単糖当量に換算するための係数は

180.16 ÷ 162.14 = 1.111…   と計算できます。

 

ところが、ここで得た科学的に正しい、「各利用可能炭水化物(各糖類)」の質量から単糖当量への換算係数を「成分表2020年版(八訂)」では使っていません。なぜでしょうか。

その理由は、食品成分表の策定では、国際的基準など実用的な見地から、FAO/INFOODS の提案や指針をできる限り尊重しているからです。成分表は、食品成分データベースとして、地域別の成分表として共通して使うことが検討されています(別の機会にお話しします)。

これらのことから、「成分表2020年版(八訂)」では、利用可能炭水化物の質量を単糖当量に換算するための係数は、FAO/INFOODSの係数を使っています(表3)。

表3 利用可能炭水化物の質量を単糖当量にするための係数

でん粉 1.10
(単糖類) (1.0)
二糖類 1.05
80%エタノール可溶性のマルトデキストリン 1.10
マルトトリオース等のオリゴ糖類 1.07

表3の係数を用いた各糖類の質量から単糖当量への計算は,下記(青字)式により計算できます。

利用可能炭水化物の質量を各糖類から計算する3つの式

・でん粉および80%エタノールに可溶性のマルトデキストリン × 1.10

・マルトトリオース等のオリゴ糖類 × 1.07

二糖類 × 1.05

換算係数(表3)からもわかるように、単糖当量を算出するために、各糖類に乗じる換算係数は1以上です。そこで、「利用可能炭水化物(単糖当量)」(A)の収載値は、「利用可能炭水化物(質量計)」(B)よりも大きい値になっています。

 

5) 差引き法よる利用炭水化物の計算方法と使い方

「差引き法による利用可能炭水化物」(C)は、「炭水化物」(F)とは異なる成分です(「炭水化物」に「差し引き法による利用可能炭水化物」が含まれています)。しかし、この2つの成分項目の相違がわからないとの質問も多く寄せられています。

成分表では、従来から、「炭水化物」(F)はほとんどの食品で、差引き法により計算されています。そのため、炭水化物は、「差引き(法)による炭水化物」とも呼ばれてきました。一方、「差引き法による利用可能炭水化物」(C)は、今回の成分表で新たに収載されて成分項目です。そのため、解説を読まない場合は、差引きの文字が記載されているので、「炭水化物」(F)との違いがわかたない との質問につながっているようです。

成分項目についての説明は、「日本食品標準成分表」の第1章に載っています。第1章は、いわば成分表の「取り扱い説明書」です。意味合いが納得できると的確に活用できますので、新しい成分項目の説明は特にぜひ読みましょう。

では、「差引き法による利用可能炭水化物」(C)の算出方法をみてみましょう。

表4に手順を記載しました。計算の手順からも、「差引き法による利用可能炭水化物」(C)が、「炭水化物」(F)に含まれることがわかります。

表4「差引き法による利用可能炭水化物」(C)の算出手順

①    連載19回に記載した方法で、炭水化物群の「炭水化物」(F)を算出します。

下記の3つの式から該当するものを選択します。

1式:100g-(水分+たんぱく質+脂質+灰分)g= 炭水化物 g

2式:100g-(水分+たんぱく質+脂質+灰分+「有機酸、アルコール、カフェインなどの成分」) g = 炭水化物 g

3式:100g-(水分+たんぱく質+脂質+灰分+加熱により発生する二酸化炭素等)g= 炭水化物 g

② ①の3つの式で算出した炭水化物量を用いて、「差引き法による利用可能炭水化物」を算出します。

4式:「炭水化物(g/100g)」―(「食物繊維総量(g/100g)」(D)+「糖アルコール(g/100    g)」(E) =「差引き法による利用可能炭水化物(g/100g)」(C)

今回は、3種類の利用可能炭水化物について、収載値を測定あるいは計算する方法についてお話しました。3種類の利用炭水化物の違いがおわかりいただけたでしょうか。

この3つが並んで収載されるのは、今回の成分表が初めてです。

3種類の違いがわかると使い方への理解も深まります。

次回は、この3種類の利用炭水化物の使い方についてお話します。

 

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