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食品成分表

連載【18】再び、成分表2020年版(八訂)のエネルギーのお話です

知れば知るほどおもしろい!「食品成分表」渡邊智子栄養学食品成分表

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渡邊智子

学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長

成分表2020年版(八訂)の最大の変更点はエネルギーに関することです

「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」[以下、成分表2020年版(八訂)]を使い始めた(ようとしている)かたが、増えていると思います(そうであってほしいです)。八訂についての講演をさせていただくことが多くなっていますが、質問の多くはエネルギー値に関することです。

そうなんです。この成分表の大きな変更点は、ほとんどの食品のエネルギー量が変わったことです。あらためてご紹介します。

エネルギーの値は、「エネルギー産生成分量(100g当たり)×エネルギー換算係数」を、各エネルギー産生成分別に計算し、それを合計したものです。主要なエネルギー産生成分は、エネルギー産生栄養素とも呼ばれる、たんぱく質、脂質、炭水化物です。

成分表2020年版(八訂)の主要なエネルギー産生栄養素は、原則として「アミノ酸組成によるたんぱく質」、「脂肪酸のトリアシルグリセロール当量」、「利用可能炭水化物(単糖当量)」です(原則以外についての詳細は、この連載第16回および第17回をご覧ください)。

成分表2020年版(八訂)のエネルギー量が変わった理由を再確認

成分表2020年版(八訂)では、それ以前の成分表とは異なり、エネルギーの計算に用いる主要な成分である「エネルギー産生栄養素(たんぱく質、脂質、炭水化物)」および「エネルギー換算係数」の2つともを変更しています。

「エネルギー産生栄養素(たんぱく質、脂質、炭水化物)」は組成成分から算出する確からしい成分に、「エネルギー換算係数」は国際的に用いられているFAO/INFOODSの換算係数に変更されています。(くわしくは第8回をご覧ください) 

エネルギー量の変更が栄養価計算に及ぼす影響は成分表収載食品で見ると平均で9%減

成分表2020年版(八訂)のエネルギー値は、それまでの成分表のエネルギー算出方法によるエネルギー量に比べ、平均で9%程度少ないため(海藻類やきのこ類など増加した食品もあります)、同じ食事を、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」[以下、成分表2015年版(七訂)]で計算した値と比べ、小さい値になる場合がほとんどです。国民健康・栄養調査の値を用いた計算では、日本人の1日の摂取エネルギー量は、成分表2015年版(七訂)での算出よりも約8%少ない値でした(※1)。

もちろん、どの成分表で計算しようとも、同じ食事であれば、おいしさ等の外観、味、重さは同じです。

ここで、実際の献立で計算してみましょう。たとえば、下記のメニューを昼食に食べた場合のエネルギー量を成分表2020年版(八訂)で計算してみました。

とんかつ定食

白飯 150g

とんかつ 100g    + ソース 10g

サラダ (トマト 50g +キャベツ 40g  +和風ドレッシング 5g)

すいか 150g

成分表2020年版(八訂)の新しいエネルギー値と、成分表2015年版(七訂)の方法のエネルギー値で計算すると表1のようになります。

表1 とんかつ定食の献立の計算結果 

成分表2020年版(八訂)のエネルギー値と成分表2015年版(七訂)の方法で算出されたエネルギー値との比較。

成分表2020年版(八訂)の収載値(新しいエネルギー量)は、成分表2015年版(七訂)の方法のエネルギー量よりも4.2%小さい値になっています。この差を大きいと思うかたもいるかもしれませんが、栄養士・管理栄養士の皆さんは、そんなに心配しなくても大丈夫と思ったかたが多いのではないでしょうか。

料理別に、新しいエネルギー量の値が成分表2015年版(七訂)の方法で算出されたエネルギー量に比べ、どのくらい小さくなっているかを計算すると

(100-成分表2020年版のエネルギー量÷成分表2015年版の方法のエネルギー量×100)

表2のようになります。

表2 成分表2020年版(八訂)のエネルギー量での計算が、成分表2015年版(七訂)の方法で算出されたエネルギー量での計算に比べ小さくなっている割合(%)

−は、2020年版(八訂)のほうがエネルギー値が大きいことを示している。

表2を見ると、成分表2020年版(八訂)のエネルギー量を用いた料理のエネルギー量は、成分表2015年版(七訂)の方法で算出されたエネルギー量に比べると、食事全体では減少していますが、料理により、相違の程度(相違量)が異なっていることがわかります。

皆さんも、これまでの献立について2種類のエネルギー値を用いて計算してみると、どの献立にどのような変化があるかがわかり、今後の献立作成に役立つと思います。

成分表2020年版(八訂)は現時点の最も確かな「食べ物の物差し」です

上述したように、成分表2020年版(八訂)でエネルギー量を計算すると、成分表2015年版(七訂)の方法で算出されたエネルギーよりも少なくなることがほとんどです。

これは、食事の栄養量を評価する基準(物差しともいえます)である「食品成分表」が変わったからです。成分表2020年版(八訂)では、今まで以上に確からしい値である「エネルギー産生栄養素」を選択し、国際的に用いられているエネルギー換算係数を用いることで、今まで以上に確からしいエネルギー量の収載をしています。そこで、成分表2020年版(八訂)を使う栄養価計算を適切に行なうと、現時点で最も、確からしい栄養価計算ができます。

物差しが変わったというのは、たとえば、エネルギーを10kcal計量スプーンで測っていたとしたら、これまで使っていた計量スプーンが、成分表2020年版(八訂)の改訂に伴い9%程度小さくなったということになります。

外食、中食、調理済み流通食品の栄養表示はどの成分表!?

外食、中食、調理済み流通食品の栄養表示、特にエネルギー量は、商品を選択する判断基準の1つになっています。現時点では、成分表2020年版(八訂)を使って栄養価計算した商品と成分表2015年版(七訂)を使って栄養価計算した商品が混在しています。どの成分表で計算してあるかを確認しましょう。どの成分表を使っているかは、とても重要な情報です!

同じ商品(たとえばお弁当)が、成分表2020年版(八訂)で計算すると、それまでよりも9%程度少ないエネルギー量になっていると思います(成分表の全食品を平均して食べた場合)。

これまでよりも、エネルギー量が少ないから、「なにかデザートを食べよう!」は、間違いです。(『栄養と料理』3月号に、佐々木敏先生が執筆してくださっていますので、ぜひ、ご覧ください!)

これまでどおりの食事で大丈夫です

成分表2020年版(八訂)を基準として栄養価計算を行なうと、これまでよりもエネルギー量が低い値になります。

それは、給食施設では、予定していたエネルギー量が、成分表2020年版(八訂)を基準として考えると低い値であることを意味します。その計画で献立を立て、それを食べている集団の評価や改善がうまくいっている(PDCAサイクルが行なわれている)のであれば、これまでの献立を用い引き続き、PDCAサイクルを行ないましょう。(『栄養と料理』7月号に佐々木敏先生が記載くださっています)

エネルギーの過不足は、一人ひとりが体重を測定する(起床排尿後がおすすめです)ことで、自分について知ることができます。食事アドバイスでは、このことの周知も引き続き行ないましょう。

成分表2020年版(八訂)のエネルギー量の変更とその理由、使い方を皆に広げよう!

成分表2020年版(八訂)のエネルギー量が変更されたこと、変更の理由、これまでのエネルギー量との相違、新しいエネルギー量の使い方は、食に関わるすべての人に知っておいていただきたい情報です。

小中学校の家庭科の食分野、給食の時間、食育の時間、高校の家庭科、食に関する雑誌などで、対象者に応じたわかりやすい解説をお願いします。

これをお読みになったかたは、ぜひ、お友達にお話ししてみましょう。

 

※1 松本万里, 渡邊智子, 松本信二, 安井明美. 食品のエネルギー値の算出方法についての検討:組成に基づく方法と従来法と比較.  日本栄養・食糧学会誌 2020; 73: 255-64

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