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食品成分表

【成分表連載30】飯(めし)類の食物繊維総量の推定値表付き! 成分表2020年版(八訂)の「食物繊維」の見方と推定のくふう

知れば知るほどおもしろい!「食品成分表」渡邊智子栄養学食品成分表

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渡邊智子 学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長

 

わたなべともこ東京栄養食糧専門学校校長。医学博士。千葉県立衛生短期大学、千葉県立保健医療大学、淑徳大学を経て現職。千葉県立保健医療大学名誉教授、千葉県学校保健学会理事長。文部科学省による日本食品標準成分表の策定に食品成分委員会委員等として30年にわたり携わり、成分表活用の研究・提言を行なう。千葉県食育推進県民会議委員として千葉県の食育ツール(グー・パー食生活ガイドブック等)の開発・普及も行なっている。

「食物繊維総量」の成分値には2種類ある

成分表2020年版(八訂)の本表では、「食物繊維」は「食物繊維総量」だけが収載されています(「水溶性食物繊維」と「不溶性食物繊維」は収載されなくなりましたが、「炭水化物成分表編」の「食物繊維成分表」に収載されています)。

成分表2020年版(八訂)の食物繊維の分析は、2つの方法が採用されています。2つの分析方法による食物繊維総量は、測定できる成分の相違があるため、値に違いがあります。値に含まれる内容が異なるわけですが、成分項目の区別はなく、どちらも「食物繊維総量」として同じ項目の行に収められています。

そこで、2つの分析方法の値がなぜ異なるか、どちらの方法の成分値であるかはどこで判断できるのか、などを理解しておくことが大切です。

成分表2020年版(八訂)の2つの分析方法は、「プロスキー変法(AOAC985.29 法を基礎とする分析法)」と 「AOAC.2011.25法」です。それぞれ以下のポイントをおさえましょう。

プロスキー変法(AOAC985.29 法を基礎とする分析法)

●成分表2015年版(七訂)の分析で実施していた方法

●分析成分(成分項目):「不溶性食物繊維」、「水溶性食物繊維」

●食物繊維総量=「不溶性食物繊維」+「水溶性食物繊維」

AOAC.2011.25

2018年以降の分析で実施している方法

分析成分(成分項目):「低分子量水溶性食物繊維」、「高分子量水溶性食物繊維」(プロスキー変法での水溶性食物繊維に等しい)、「難消化性でん粉を含む不溶性食物繊維」(成分項目名は「不溶性食物繊維」)、「難消化性でん粉(不溶性食物繊維の内数)」

●食物繊維総量=「低分子量水溶性食物繊維」+「高分子量水溶性食物繊維」+「難消化性でん粉を含む不溶性食物繊維」

すなわち、AOAC.2011.25法の総食物繊維は、プロスキー変法のそれに比べ

1.「低分子量水溶性食物繊維」が加算されている

2.「不溶性食物繊維」にすべての難消化性でん粉が含まれている。また、難消化性でん粉の量も示されている

 (プロスキー変法では一部の難消化性でん粉が含まれると推察されるがその量は不明でした)

 

そのため、同じ食品の「食物繊維総量」を「プロスキー変法」と「AOAC.2011.25法」で分析すると…

「AOAC.2011.25法」の値   >  「プロスキー変法」の値

になります。

ではなぜ、分析方法がプロスキー変法からAOAC.2011.25法に変わったのでしょうか。

それは、プロスキー変法の次の課題を解決するためです。

「プロスキー変法」の課題

1.コーデックス委員会が定義した「食物繊維」のうち、難消化性でん粉等の一部が含まれない

2.イヌリンの分解物や大豆オリゴ糖等の低分子量の難消化性水溶性炭水化物が含まれない

3.日本の食品表示法で採用している、低分子量の水溶性炭水化物が定量できない 他

課題を解決するために…

「AOAC.2011.25法」の導入

1.難消化性でん粉を含むようになる

2.低分子量の難消化性水溶性炭水化物(すなわち食物繊維)が含まれるようになる

3.低分子量の水溶性炭水化物(すなわち食物繊維)が定量されるようになる

これにより課題が解決し、実際に摂取している食物繊維の総量の収載が実現

一方で、成分表2020年版(八訂)の食物繊維では、測定方法がまだ一部食品でしか切り替わっていません。プロスキー変法の値の場合には「低分子量水溶性食物繊維」や「難消化性でん粉」が含まれません。そのため、これらを含む食品では、実際より食物繊維総量が低く見積もられることとなります。両者の含有量が多いと、実際との相違が大きくなります。

「食物繊維総量」の見方と使い方のくふう

このように、成分表2020年版(八訂)では、従来のプロスキー変法により分析した食物繊維の成分値を、AOAC. 2011.25 法による分析値に置き換えることにしましたが、2018年からのとり組みなので、多くの食品での実施はできませんでした。そのため、ユーザーが現状を理解し適切に使う必要があります。

なお、成分表2020年版(八訂)では、AOAC. 2011.25 法による食物繊維を収載している食品は、備考欄食物繊維:AOAC.2011.25法の記載があります。

下表に食品番号、索引番号、食品名、食物繊維総量、備考欄を成分表2020年版(八訂)から抜粋し示しました。からわかるように数値を見て分析方法に気づくのは困難です。

そこで、備考欄に「食物繊維:AOAC.2011.25法」と記載の食品は、食物繊維総量にマーカーで色を付す等のくふうをすると便利です。

表1 成分表2020年版(八訂)の食品名、食物繊維総量、備考欄等

(「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」から抜粋)

成分表の「飯(めし)」の種類と見方

飯(めし)を例にして、具体的な使い方のくふうについて考えてみましょう。飯(めし)10食品の食物繊維と備考欄の「食物繊維:AOAC.2011.25法」の記載を表2にまとめました。

表2 成分表2020年版(八訂)における飯(めし)10食品の食物繊維総量と備考欄に記載の測定法

(100gあたり)

1)成分表2020版(八訂)の「玄米飯」と「精白米飯」の関係

玄米(めし)の食物繊維総量は、成分表2020年版(八訂)ではプロスキー変法の値で1.4g/100gです。

成分表2020年版(八訂)の精白米うるち米(めし)の食物繊維は、AOAC.2011.25法の値なので、玄米飯よりも多い1.5g/100gです。食物繊維総量の分析方法が異なるため、実際には玄米のほうが食物繊維量は多いことが明らかですが、成分表の数値に逆転現象が起きてしまっています。

理由がわからないと、「えっ!」「なぜ?」となってしまいます。読者の皆さんには、わかっていただけたと思いますので、大丈夫なはずです。

2)「玄米飯」のAOAC.2011.25法による食物繊維総量の推定方法

ここで、赤米と黒米は、玄米の表面(果皮、ぬか層)に色素を含む有色米です。

赤米はタンニン系色素を含み赤褐色の米、黒米はアントシアニン系色素を含み黒色の米です。「色素米」とも呼ばれ、「古代米」の名で販売されている場合もあります。したがって、玄米と赤米や黒米は、色素以外の成分に大きな相違がないこと、食物繊維量に大きな相違がないと推察されます。

玄米飯の食物繊維をAOAC.2011.25法で分析すると、赤米飯と黒米飯の収載値に近似すると推定されます。

玄米(めし)のAOAC.2011.25法による食物繊維(g/100g)

=[赤米(めし)食物繊維総量3.4g/100g+黒米(めし)食物繊維総量3.3g/100g]÷2

=3.4g/100g

玄米(めし)の食物繊維のAOAC.2011.25法の推定値を3.4gとすると、なんだか安心できませんか。

3)「半つき米(めし)」、「七分つき米(めし)」、「精白米 インディカ米(めし)」、「精白米 もち米(めし)」、「はいが精米(めし)」のAOAC.2011.25法による食物繊維総量の推定方法

これらの飯(めし)のAOAC.2011.25法による食物繊維総量は、プロスキー変法での比較から精白米(めし)のAOAC.2011.25法による食物繊維総量(1.5g/100g)よりも多いと推定されます。

そこで、これらの飯(めし)のAOAC.2011.25法による食物繊維総量は、精白米 うるち米(めし)の1.5g/100gとしてみてはどうでしょうか。これ以上の値であることは確かですが、推定できないので!

4)「発芽玄米(めし)」のAOAC.2011.25法による食物繊維総量の推定方法

発芽玄米は、成分表2020年版(八訂)の収載値(プロスキー変法の値)が玄米の値よりも高い値です。そこで、発芽玄米のAOAC.2011.25法の値は、玄米のAOAC.2011.25法の推定値としましょう。すなわち、前述したように、赤米や黒米から推計するとよいでしょう。

5)成分表2020年版(八訂)の飯(めし)類の食物繊維総量の推定値表

上述のことから、成分表2020年版(八訂)の飯(めし)類の食物繊維総量のAOAC.2011.25法による推定値表を作りました。黒文字が現在収載されている分析値、赤文字が1)から4)を反映させた推定値です。この値を使うと実際に摂取している食物繊維総量に近い値で計算できます。

表3 飯(めし)10食品のAOAC.2011.25法による食物繊維総量の推定値

(100gあたり)

成分表2020年版(八訂)のAOAC.2011.25法による食物繊維総量の分析の状況

AOAC.2011.25法の分析の導入は、下記の方針を基に進められました。

1) 難消化性でん粉と難消化性オリゴ糖の両方を含まない食品は再分析の必要性は低い。

2)難消化性でん粉があまり含まれないと考えられる食品は、プロスキー変法による食物繊維総量でAOAC.2011.25法に代用できる。これに、AOAC.2011.25法に準じた酵素反応条件を適用した「低分子量水溶性食物繊維(SDFS)」を分析して加えるのも一つである。

そこで、具体的には、総でん粉量が 1 %以上である食品を判断基準として、穀類、いも及びでん粉類、菓子類等に属する植物性食品から、順次AOAC.2011.25法による分析を実施し、それが成分表2020年版(八訂)に収載されています。

成分表2020年版(八訂)における「食物繊維」について、ご理解いただけましたでしょうか。今回は、本表の「総食物繊維量」についてあらためてご説明しました。炭水化物成分表の別表にある「食物繊維成分表」の見方についても、折を見てご紹介したいと思います。


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