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食品成分表

【成分表連載33】成分表の「調理前食品」と「調理後食品」の関係

知れば知るほどおもしろい!「食品成分表」渡邊智子栄養学食品成分表

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渡邊智子 学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長

 

わたなべともこ東京栄養食糧専門学校校長。医学博士。千葉県立衛生短期大学、千葉県立保健医療大学、淑徳大学を経て現職。千葉県立保健医療大学名誉教授、千葉県学校保健学会理事長。産業栄養指導者会会長。文部科学省による日本食品標準成分表の策定に食品成分委員会委員等として30年にわたり携わり、成分表活用の研究・提言を行なう。千葉県食育推進県民会議委員として千葉県の食育ツール(グー・パー食生活ガイドブック等)の開発・普及も行なっている。

栄養計算を調理後で行なうことの意義 

本連載第32回で、次回は炭水化物について質問の多い内容をご紹介するとお知らせしましたが、予定を変更し、最近、質問を多く受ける「成分表2020(八訂)」に収載されている「調理した食品」についてご説明します。収載されているけど「どう理解すればよいか」「どう栄養計算に使えばよいか」わからないなどの声にお応えするものです。

成分表2020(八訂)は、調理した食品の収載数が増加しています。調理した食品は、日本では、「四訂日本食品標準成分表」で本格的に収載が始まりました。米の摂取形態はごはん、魚の主要な摂取形態は煮魚や焼き魚、青菜の主要な摂取形態はお浸しです。

四訂成分表以降、成分表2020(八訂)までの成分表では、調理する前の食品と調理後の食品はセットになっています。たとえば、米であれば同じ袋の米の中から一定量の米を「調理する前の食品」として分析し、一定量の米を炊飯し、その「飯(めし)」を「調理した食品」として分析しています(図1)。

 

図1 米の「セット」(イメージ図)

 

なぜ、調理する前の食品と調理後の食品はセットなのでしょうか

それは、調理により食品の成分が変化する(おもに損失する)ことを科学的に明らかにするためです。

そのために、調理前食品の質量と調理後食品の質量を計量し、調理による重量変化率を算出する必要があります。

重量変化率は1式で計算できます。

調理後食品の質量÷調理前食品の質量×100=重量変化率(%)・・・1式

たとえば、成分表2020(八訂)を見ると、「飯」の重量変化率は210%です。

これは、「米100g」が炊飯により「飯210g」になったことを示しています。

つまり、成分表2020(八訂)の、米の収載値100gあたりの各成分値と、飯の収載値210gあたりの各成分値は、調理による成分の損失がなければ同じ値になるということを意味しています。

「米」が「飯」になると成分はどれくらい損失するか計算してみましょう

米は、洗米し加水し加熱し飯ができあがります。そのため、調理による成分損失があり、米100gに比べ飯210gに含まれる各成分値は低い値になっています。

たとえば,ビタミンB1について計算してみましょう。

ビタミンB1/100gは、

米 0.08mg  飯 0.02mg 

飯の重量変化率は210%なので、

米の炊飯(洗米、加水、加熱)による成分変化率(ビタミンB1

=0.02×2.1(飯210gあたり)÷ 0.08(米100gあたり)×100=53%

です。

ほかの成分についても、同様の方法で計算することができます。

小型や中型の魚の「調理前食品」と「調理後食品」のセットの方法

小型や中型の魚、りんごや桃などの食品について、調理前後の食品をどうやってセットにするかを図2に示しました。生の試料、調理形態別の試料(図2では「水煮」と「焼き」)について、どのグループも、できるだけ同じ大きさ、外観の試料がそろうように試料を区分します。

図2 魚のセット(イメージ図)

 

この場合も、「水煮」および「焼き」の調理では、調理前後の重さを計量し、重量変化率を算出しています。

調理後食品の成分値と重量変化率を使う栄養計算のすすめ

私たちは、米ではなく「ごはん」すなわち「飯」を食べて生活しています。そこで、栄養計算では、「飯」の収載値を利用することをおすすめします。

「米100g」に対応する「飯」の成分値は、「飯210g」の成分値です。「飯210g」の値は、米100gが飯に調理された時の各成分の値を示しています。これは、たとえば、「米100g」を炊いて「200g」あるいは「250g」の「飯」ができた場合も、水分以外の成分値は、成分表の「飯210g」の成分値であることを示しています。そのため、皆さんの調理後の飯の重さを測定する必要はありません!

たとえば、米80gを食べるレシピでは、栄養計算で使う飯の質量は下記の2式で計算できます。

米 80g× 重量変化率 210% ÷ 100 = 飯 168g・・2式 

実際の栄養計算では、

飯の各収載値 × 168g ÷100 

で摂取する飯の成分値が計算できます。

 

調理した食品をセットで分析していることについての現時点での私見

四訂成分表以降、成分表2020(八訂)まで継続して行なっている「調理前後の食品をセットで分析する」成分表で行なっている方法は、日本人の多くが原材料食品を各家庭や給食施設で料理した食品を摂取しているという現状に基づいています。

今後、調理した食品を購入する食生活が主流になれば、調理前後の食品のセットで分析する必要がないとの考え方も出てくると思います。それが現状の食品の成分値であり、予算の削減につながるからです。

しかし、現在行なっている「調理前後の食品をセットで分析する」方法は、調理による各成分の変化率が明らかになり、それを食事指導などで活用できるので継続することのメリットは大きいと思っています。また、成分表2020(八訂)で収載されている「調理による成分変化率区分別一覧」に多くのデータが加わることで、信頼できる値が明らかになると考えます。

【編集部から】女子栄養大学出版部の栄養計算ソフト《栄養Proクラウド》では、調理前の重量で調理後の成分値を計算できる機能があります。ぜひご活用ください。参考資料PDF

 

読者からの報告 ~仙台市の事例~

エネルギー量についての対応が、教育委員会を巻き込んで進んでいます。管理栄養士である市会議員さんの議会での質問が、下記のような取り組みにつながった仙台市の事例をお知らせいただきましたのでご紹介します。

仙台市教育委員会(小中学校)および仙台市公立保育所で、「食品成分表に係るお知らせ」について、文書発出及び現場への啓発をし、「給食だより」などでのお知らせが進んでいます。公立保育所では7月の献立表(給食だより)で、小中学校においては早ければ8月の夏休み明けにお知らせすることとなります。また、仙台市の保健所からは6月に提出する給食施設状況調査の実施についての5月に出した発文で「栄養管理報告書について、八訂食品成分表で算出したことにより給与栄養量が食事摂取基準と乖離している場合は、備考欄に八訂成分表使用の旨をご記入ください」とお知らせしているそうです。


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