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食品成分表

【成分表連載34】「炭水化物がやはりわからない」にお答えします

知れば知るほどおもしろい!「食品成分表」渡邊智子栄養学食品成分表

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渡邊智子 学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長

 

わたなべともこ東京栄養食糧専門学校校長。医学博士。千葉県立衛生短期大学、千葉県立保健医療大学、淑徳大学を経て現職。千葉県立保健医療大学名誉教授、千葉県学校保健学会理事長。産業栄養指導者会会長。文部科学省による日本食品標準成分表の策定に食品成分委員会委員等として30年にわたり携わり、成分表活用の研究・提言を行なう。千葉県食育推進県民会議委員として千葉県の食育ツール(グー・パー食生活ガイドブック等)の開発・普及も行なっている。

食品成分表の「炭水化物」の栄養計算を深掘りします

成分表2020(八訂)のエネルギーは、成分表2015(七訂)に比べ、これまで以上に真値に近づける目的で算出方法が変わりました。皆さんは、このエネルギー値を使って栄養計算を行なっていらっしゃることと思います。しかし、八訂のエネルギーを使いながら、七訂のエネルギーの算出に用いられた「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」を使って栄養計算をしていませんか? 

八訂のエネルギーを使うのであれば、このエネルギーを算出するのに使っている成分項目を使って栄養計算することにとり組みましょう(本連載第16回17回)。そうすることで、これまで以上に実際の摂取量に近い「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」の値を得ることができます。

しかし、エネルギー計算に使った成分項目を使う栄養計算に躊躇するユーザーからは、下記の要望をよくいただきます。

「摂取量に近い値が計算できることはわかりました。『たんぱく質』は『アミノ酸組成によるたんぱく質』、『脂質』は『脂肪酸のトリアシルグリセロール当量』を用いるということについては、大丈夫です。でも、炭水化物については、やはりよくわかりません。ていねいに教えてください!」

そこで、なぜ「炭水化物はわからない」というかたが多いのか考えてみました。

1栄養計算で使う炭水化物について質問が多い理由

1)成分表2020(八訂)の表頭 に6つの成分項目があって大混乱!

質問が多い理由の1つは、成分表2020(八訂)の炭水化物の成分項目(図1)を見るとわかります。

炭水化物群に6つの成分項目があり、文科省版の成分表の第1章説明(女子栄養大学出版部の『八訂食品成分表2022』「説明」p.286-333で同じものを収載)を読まないと、成分表2020(八訂)のエネルギーがどの成分から計算した値かがわからないためです。第1章のエネルギーの項目(『八訂食品成分表2022』p290-291)を読めば、成分表2020(八訂)のエネルギーの算出に使われる、栄養計算に使う成分項目がわかります。

図1赤い〇囲みの「炭水化物」は成分表2015(七訂)の方法のエネルギーの算出に使われた成分項目であり、成分表2020(八訂)のエネルギーの算出に用いた炭水化物ではありません。そのため、この「炭水化物」の値は、成分表2020(八訂)のエネルギーを用いる場合には、おすすめできません(どの値を用いたらよいかは後述いたします)。

図1 成分表2020(八訂、文科省版)の表頭(炭水化物部分)

 

2)「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の炭水化物 と照らし合わせるにはどうしたら?

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、炭水化物の指標は、炭水化物のエネルギー比率と食物繊維(g/日)です。栄養計算を食事評価に用いる場合、この2つの指標だけを使うのであれば、成分表2020(八訂)の炭水化物の成分項目について理解していなくても計算できます。炭水化物(%エネルギー比率)は、「たんぱく質」や「脂質」のエネルギー比率を用いて引き算でも計算できるからです。そのため、成分表2020(八訂)の炭水化物群については、理解しなくても大丈夫と判断している方も多いようです。

炭水化物のエネルギー比率

ここで、炭水化物のエネルギー比率の出し方について確認しておきましょう。炭水化物(%エネルギー比率)、すなわち総摂取エネルギー量に対する炭水化物からの摂取エネルギー比率は、最も一般的な炭水化物の評価指標です。1式で計算しましょう。

100% -(アミノ酸組成によるたんぱく質 × 4 ÷ 総エネルギー量 + 脂肪酸のトリアシルグリセロール当量 × 9 ÷ 総エネルギー量)・・・・1式

総エネルギー量は、総摂取エネルギー量です。

もし、「アミノ酸組成によるたんぱく質」ではなく従来の「たんぱく質」、「脂肪酸のトリアシルグリセロール当量」ではなく従来の「脂質」を使って「炭水化物(%エネルギー比率)」を計算する場合は、「成分表2020(八訂)における成分表2015(七訂)の方法のエネルギー量」を使って同様に計算します。

「成分表2020(八訂)における成分表2015(七訂)の方法のエネルギー量」は、文科省版の成分表では第3章資料の2に収載されています。女子栄養大学出版部の成分表は、がそれに相当し、このエネルギーの算出に用いた「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」が隣に並んで配置されています。なお、のエネルギーには、糖アルコールおよび有機酸から計算するエネルギー量も加算されています。

図2 女子栄養大学出版部の『八訂食品成分表2022』の表頭における成分表2015(七訂)の方法のエネルギーとその算出のための成分

 

2「炭水化物」のどの項目をどのように使うか

本連載では、「成分表2020(八訂)」の炭水化物の種類と使い分けについては、第21回および第22回の2回にわたり「『成分表2020年版(八訂)』の『炭水化物』と3種の『利用可能炭水化物』はこう使いましょう!」の前編、後編として解説しました。ぜひ、ご一読ください。今回は、炭水化物のそれぞれについて、どのように計算するのが妥当か、より深めて参りましょう。

1)成分表2020(八訂)のエネルギー値を使うときの「炭水化物」はどの項目?

成分表2020(八訂)のエネルギーを使う栄養計算での「炭水化物」の量(重さ)は、成分表2015(七訂)の方法のエネルギー計算に用いてきた「炭水化物」ではなく、「利用可能炭水化物(質量計)」あるいは「差引き法による利用可能炭水化物」「食物繊維」「糖アルコール」です。厳密にはこれを用いて計算します。

2)炭水化物の栄養計算には、栄養計算に適する成分表を用意しましょう

文科省版の成分表を見ると、利用可能炭水化物が3種類もあるため、この3種の違いや用途を理解していても、食品別に成分値を選択するのに手間がかかります(図3左)。

そうした手間を省くことができる成分表を入手されると便利です。具体的には、成分表2020(八訂)のエネルギー量を算出した利用可能炭水化物の摂取量を算出できる成分項目(BあるいはC)があり、全食品に収載値がある成分表になります(図3右のように女子栄養大学出版部のは、そうなっています)

 

図3 文科省版(左)と女子栄養大学出版部の『八訂食品成分表2022』の表頭

3 「糖質」と成分表2020(八訂)の利用可能炭水化物

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、炭水化物を「易消化性炭水化物を糖質」と「難消化性炭水化物を食物繊維」に区別して呼ぶとしています。

「糖質」は、成分表2020(八訂)では「利用可能炭水化物」ととらえることができます。成分表2020(八訂)に「糖質」、つまり「利用可能炭水化物」は3種類あります。そのため、「糖質」の摂取量を計算するためには、この3種類のどれを選択すればよいかを知っている(理解している)必要があります。

1)糖質(利用可能炭水化物)の摂取量(重さ)

栄養計算では、各成分の多くは質量すなわち重さの合計で示してきました。糖質の摂取量も同様に、重さで計算するのが一般的です。その場合、文科省版を用いると、少し手間がかかります。

「利用可能炭水化物(単糖当量)」をエネルギー計算に使っている食品は、「利用可能炭水化物(質量計)」を用います。

「利用可能炭水化物(単糖当量)」をエネルギー計算に使っていない食品と、「利用可能炭水化物(単糖当量)」が未収載な食品は、「差引き法による利用可能炭水化物」の値を用います。

栄養計算では、上記を組み合わせて計算すると、「糖質」の摂取量(重さ)が計算できますが、作業が煩雑です!(せっかく取り組もうと決心していても、挫けてしましそうです)

そこで、糖質の摂取量に用いる「利用可能炭水化物」を、食品ごとに適切な項目をあらかじめ選んで記入してある成分表があると、この煩雑さを解消できます。この編集がされている成分表をぜひ入手しましょう。たとえば、女子栄養大学出版部の『八訂食品成分表2022』では、「利用可能炭水化物」の項目に、この値が収載してあります。糖質の摂取量が容易に計算できます。

2)糖質(利用可能炭水化物)の利用率を考慮した摂取量

利用率を考慮した糖質の摂取量の計算について考えてみましょう。

「利用可能炭水化物(単糖当量)」は、糖類の質量を単糖に換算し合計した値です。それは、糖類は体内で単糖に分解されてから吸収されるからです。つまり、「利用可能炭水化物(単糖当量)」は、利用率を考慮した摂取量を算出する値と言えます。ビタミンA 効力のような考え方の値です。糖尿病などで糖質制限がある場合は、利用可能炭水化物(単糖当量)を用いたほうが、体への影響に関してより正確な値を把握できるので、将来的にはこの値を使うようになるかもしれません。

この値を栄養計算に使う場合は、「利用可能炭水化物(単糖当量)」をエネルギー計算に使っている食品はその値を用います。一方、それ以外の食品は値が「ない」つまり「未収載」ですから、「差引き法による利用可能炭水化物」から「利用可能炭水化物(単糖当量)」を推計することも一考です。

推計値は、以下の計算式で算出できます。あらかじめこの値を算出し、登録しておくと便利です。

エネルギー換算係数は、利用可能炭水化物(単糖当量)3.75、差引き法による利用可能炭水化物(質量計)4 なので、

差引き法による利用可能炭水化物(質量計)×4/3.75 =利用可能炭水化物(単糖当量)推計値

4 糖類の今後

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、炭水化物の今後の課題の1つとして、「糖の健康影響はその種類によって同じではない。特に、糖類(単糖及び二糖類)と多糖類のそれでは大きく異なる。その健康影響は、その摂取量実態も含めて、日本人ではまだ十分には明らかになっていない。それぞれの目標量の設定に資する研究(観察研究及び介入研究)を進める必要がある」としています。女子栄養大学出版部の『八訂食品成分表2022』の「糖類」の項目は、成分表2020(八訂)の炭水化物成分表編にある「単糖」と「二糖類」の合計量です。作成した献立からどれだけの糖類を摂取したかを計算できます。

糖類の過剰摂取が肥満やう歯の原因となることは広く知られていますが、成分表2020(八訂)炭水化物成分表編が公表されるまでは、日本人の糖類の摂取量の把握は困難でした。成分表2020(八訂)炭水化物成分表編のおかげで、糖類の摂取量が把握できるようになりました。

栄養士・管理栄養士の皆さんは、対象者の食事内容について成分表2020(八訂)炭水化物成分表編を使って、糖類の摂取量を計算してみましょう。それは、日本人の糖類摂取量の現状把握の一助になります。糖類摂取量を計算した結果を論文や学会発表などで公表するなどして共有していきませんか。

以上になります。「炭水化物」の栄養計算について、考え方がおわかりいただけたでしょうか。なお、食物繊維については、機会をあらためてまたご紹介します。


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