~おかゆとおもゆの見方と栄養計算法~
渡邊智子
淑徳大学看護栄養学部教授/文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会食品成分委員会主査代理
こんにちは。前回は、ごはんの話をしましたが、まず、前回のごはんの話の補足をします。
最近、レトルトごはんを多く見ます。レトルトごはんは、炊きたてをレトルト処理しているので、成分表のごはんよりもやわらかめです。そのため、同じ重量であればエネルギー量は少し低い値になります。
たとえば、レトルトごはんの表示を見ると200g 294kcal の記載の商品があります(水分量は未記載です)。水分を計算してみましょう。
レトルトごはんは、100gで147kcalです。一方、成分表のごはんは100gで168kcal、水分60gです。 水分以外がエネルギー源になるおもな成分なので、その値(乾物重量)は成分表では40g(100g-60g)です。
そこで、レトルトごはん100gの乾物重量はというと、35g(147kcal×40g÷168kcal) になり、水分は、100g-35g=65g です。
レトルトごはんを温めて少し開封を待っていると、水分がそのままそこに残っているので、いつものごはん(水分60%)よりもやわらかく感じるかもしれません。
さて、今回はおかゆとおもゆのお話です。
かゆ
まずは「かゆ」についてです。
かゆは、『日本大百科全書』(ニッポニカ)の解説を見ると、
「粥といえば水分の多い飯の意の半流動食」
の説明に加え、
「関東の人が昔から粥をあまり好まないのは食習慣によるのと、飯を炊く時間にも一因があるとみられる。関東は朝飯を炊き、朝と昼はそのまま用い、夜もそのままか茶漬けにして食べた。関西では昼に飯を炊き、昼、夜そのまま食べて、翌朝残飯を粥にする風習が長く行われていた」
と記されていました。
関東と関西でごはんを炊く時間が異なっていたとは、興味深く感じました。また、どちらの地域もおかゆがごはんから作るものであったことも、実際的だと思います。
食品成分表での「かゆ」の収載は五訂から。収載時には文献収集のほか日々同じ水分量のおかゆを作ることに四苦八苦。
「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」の「かゆ」は、「全がゆ(5倍がゆ)」、「五分がゆ(10倍がゆ)」です。それぞれ、玄米、半つき米、七分つき米、精白米で作ったかゆが収載されています。
全がゆ(5倍がゆ)は、でき上がりに米を20g含み、五分がゆは、でき上がりに米を10g含むかゆです。そのため、それぞれ20%かゆ、10%かゆとも呼ばれます。
成分表では、「かゆ」の収載は五訂成分表からです。
予備調査として、病院給食で利用するかゆを調べ、実際に作り、主要な成分を分析しました。その結果をまとめたものが文献です(五訂成分表策定時の委員であった、高居百合子先生のお考えで、成分表策定のために行った研究は、できるだけ論文としてまとめ成分表を策定する根拠となるようにしてきました1)~3))。実際に搗精度の異なる米でかゆを作る実験では、当時、食品総合研究所に所属されていた平宏和博士に試料米の選択と搗精をお願いしました。
また、かゆやおもゆを正確に作るためには、でき上がりの重量を正確に把握する必要があります。そこで、でき上がり重量が全がゆであれば、米が10%になるように重量を確認しながら、調理しました。また、病院の栄養課にご協力いただいた試料を分析しました。病院のかゆやおもゆの水分が、毎食、まったく同じではないことがわかり、日々、同じ水分量のかゆを作る困難さが、よくわかりました。
「かゆ」はほとんどの成分値が飯(めし)の分析値からの計算値。
「食品成分表」の「かゆ」の収載値は、ほとんどの成分が、飯(めし)の分析値を用いて計算した値です。
つまり、最初に記載した、実際的なおかゆです。100gの全がゆには、42gのめし(20gの米がめしになった重量)の成分値が含まれた値です。100gの五分がゆには、21gのめし(10gの米がめしになった重量)の成分値が含まれた値です。
なお、成分値は、前回お伝えしたように、調理に用いる水(加水)はイオン交換水なので、栄養計算では水道水の無機質をぜひ追加しましょう。
図は、日本の水道水の地域別と市販品のエビアンのカルシウムの値です。地域別に見ると、関東で暮らしていると、日々利用する水道水をごはん、味噌汁、お茶やコーヒーなどに使うことで、他の地域で暮らす人よりもカルシウムが摂取できそうです。
一方、日本は軟水の地域です。硬水の地域であるヨーロッパの水であるエビアンを見ると、関東の水の約4倍のカルシウムが含有されていることがわかります。
エビアンでごはんを炊くとカルシウムの摂取量が明らかに増加しますが、試したことはありませんし(味や食感もほんの少し変わるかも知れません……)、おすすめしているわけではありません。日本の軟水が日本のごはん、おかゆ、おもゆの味をおいしくしている要因の1つとも考えられるので、おもしろがって見ていただければ幸いです。
おもゆ
次に、おもゆ(重湯)についてです。
『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』では、おもゆは、
「多量の水分を入れて炊いた粥の上澄液。長時間煮たかゆをガーゼのような薄布でこしてつくる」
と記載されています。米のスープを作り液状部分だけを食べる料理です。
成分表収載時に、予備調査で病院のおもゆを調べたところ、半分の病院が、全粥とおもゆを同時に作っていました。おもゆを作り、まず、ざるなどで濾すか上澄みをとり、それをおもゆとします。
その残りを全がゆとする方法です。時間も費用も節約できる合理的な方法ではありますが、これで作った全がゆの微量成分は、おもゆの分だけ不足すると考えられました。また全がゆの味はどうなんだろうと考えました。
両者を作って比較すると、おもゆの残渣であるおかゆは、濾す過程で表面が壊れる飯粒が出現し、食感にざらつきが生じます(上澄みをとれば、この課題は解決できそうですが)。
なにを「おもゆ」とするかはその意味でも悩ましい問題です。
「食品成分表」では、100gのおもゆには、12.6gのめし(6gの米が飯になった重量の成分値)が含まれた値です。すなわち、
おもゆ100g= 米6g=めし12.6g
にそれぞれ相当します。
手術後に丼に盛られたおもゆの量を見て、困惑している患者さんたちを見ることがあります。蓮華(れんげ)と茶わんを添えてくださると、食べようという気持ちになれそうです。
「食品成分表」の「飯」の水分
「四訂日本食品標準成分表」の飯の水分は65%です。「五訂日本食品標準成分表」以降は、60%です。
「四訂成分表」では、炊きたての飯(蒸気が出ている飯)をビニール袋に入れて、蒸気を飯に閉じ込めたと聞いています。私たちの、食べる飯は、このような熱々の状態が長く続くわけでなく茶碗に盛り、食べやすい温度になった状態です。
「五訂成分表」以降は、この蒸気を飯に閉じ込める方法をやめて、蒸気の蒸発が収まった時点の飯を試料としています。つまり、「四訂成分表」と「五訂成分表」で、加水量を変更したとか、ごはんのかたさが変わったわけではありません。
文献)
1)渡邊智子、高居百合子:飯・かゆ・おもゆの栄養価-搗精度の異なる米について-,昭和62年2月,千葉県立衛生短期大学紀要5巻2号P.31~36
2)渡邊智子、高居百合子:病院給食におけるおかゆとおもゆの栄養価,昭和62年2月千,葉県立衛生短期大学紀要5巻号
P.37~42
3.)渡邊智子、瀬尾清子、小松崎栄子、梅沢幸乃、堀田博子、蒲生香代、高居百合子,病院における治療食の栄養価(第1報) -おかゆについて-,昭和63年12月,千葉県立衛生短期大学紀要7巻1号P.19~26
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