食品成分表
連載【8】食品成分表の「エネルギー」の話(3) 「成分表2020(八訂)」公表! 新しい計算法によるエネルギー値になり、きのこや藻類のエネルギーが増加
渡邊智子
淑徳大学看護栄養学部教授/文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会食品成分委員会主査代理
『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』(以下「成分表2020(八訂)」)がクリスマスに公表されました。書籍(政府刊行物。文部科学省 科学技術・学術審議会 資源調査分科会 報告)での公表の前に、文部科学省のウェブサイトで公表されました。知りたい食品について検索してみませんか。書籍による報告は、1月になります。食品成分表の食品を活用するのに役立ちますので、興味のある方は、ぜひ購読してください。
「成分表2020(八訂)」の改訂のポイントとして重要なエネルギー量についてお伝えします。
エネルギー量の単位は、「kJ」と「kcal」で示されています。「kJ」を左に記載しているのは、科学的におすすめしているからです(両者の違いなどは、次回ご紹介します)。
食品のエネルギー値は、エネルギー産生栄養素にエネルギー換算係数を乗じ、その合計として算出されます。主要なエネルギー産生栄養素は、たんぱく質、脂質、炭水化物です。
「成分表2015(七訂)」のエネルギー値(四訂成分表以降のエネルギー値)
「成分表2015(七訂)」のエネルギー値は、原則として「四訂成分表」以降のエネルギー値の計算方法を継続しています。図1は、「成分表2015(七訂)」の表頭です。
エネルギーの計算は、主要なエネルギー産生栄養素として、図1の★のたんぱく質、脂質、炭水化物を用いています。たんぱく質は窒素に窒素-たんぱく質換算係数を乗じた値、脂質は脂溶性成分の質量、炭水化物は差引き法による値です。これらのエネルギー産生栄養素の分析は、栄養士養成校の食品学実験で学んできているのではないでしょうか。
図1 「成分表2015(七訂)」の表頭
また、エネルギー換算係数は、日本人のためのエネルギー換算係数の研究に基づく値(四訂成分表策定に当たり科学技術庁の予算で行なった大きな研究です)を基本とした、食品別のエネルギー換算係数です。なお、「成分表2015(七訂)」のエネルギー量の計算では、アルコールおよび酢酸についてもエネルギー換算係数を乗じてエネルギー量の合計に加えています。
「成分表2020(八訂)」のエネルギー値
「成分表2020(八訂)」のエネルギーは、アミノ酸組成から算出したたんぱく質、脂肪酸組成から算出した脂質(トリアシルグリセロール当量)、炭水化物組成から算出した単糖当量および食物繊維や糖アルコール、酢酸を含む有機酸およびアルコールを用いています。図2は、「成分表2020(八訂)」の表頭です。
★がエネルギー値の計算に使う成分項目です。「成分表2020(八訂)」のエネルギー計算に用いたエネルギー産生栄養素量は、実際に摂取するたんぱく質、脂質、糖および食物繊維等に近似した値です(たとえばこれまで計算に用いていた脂質は食品中の有機溶媒に溶ける有機化合物の総称で、中性脂肪すなわちトリアシルグリセロールのほかに、リン脂質やステロイド等も含むなどのズレがあります)。そこで、「成分表2020(八訂)」のエネルギー量を使う場合は、エネルギー産生栄養素も★の値を使うことをおすすめします。
図2 「成分表2020(八訂)」の表頭
これらのエネルギー産生成分量に、各エネルギー換算係数(表1)を乗じた値の合計が「成分表2020(八訂)」のエネルギー量です。
表1 「成分表2020(八訂)」のエネルギー換算係数
「成分表2020(八訂)」でエネルギー換算係数は全食品同じに!
「成分表2020(八訂)」のエネルギー換算係数は、「成分表2015(七訂)」とは異なり全食品で同じです。三訂成分表のエネルギーについての記載で示したように、エネルギーの利用率は食品別に違いがあるので、食品別に個別の値を明らかにすべきとの考え方で、四訂成分表策定にあたり研究を行ないました。その研究に基づくエネルギー換算係数の利用をやめたことは、日本の食品成分表にとって大きな出来事です。
日本が、研究結果に基づくエネルギー換算係数を使っていたことについては、評価されていました(IFDC2017では、なぜ、変更を検討しているのかとの質問がありました)が、成分表を他の国の成分表と並べて利用する場合は、エネルギー換算係数を揃えておく必要があると考えられるからです。
なお、「成分表2020(八訂)」では、kJ用の換算係数とkcal用の換算係数とがあります。
「成分表2020(八訂)」では、kJ用の換算係数とkcal用の換算係数があり、「成分表2015(七訂)」で用いられていた1kcal=4.184kJ は、使いません。
「成分表2020(八訂)」では、エネルギー計算は、kcal およびkJと別々に行なっているので、kcalに4.184を乗じてみると、値が少し異なります。
では、「成分表2020(八訂)」のエネルギー量は、「成分表2015(七訂)」のエネルギー量の計算で行なった場合とはどう違うでしょうか?
「成分表2020(八訂)」の方法の値は「成分表2015(七訂)」の方法の値に比べ、平均値で約10%低い値になります。
「成分表2015(七訂)」のデータを使って両者を比較(「成分表2020(八訂)」の方法によるエネルギー値÷「成分表2015(七訂)」の方法によるエネルギー値×100(%))した値を表2に示しました。
表2 食品群別の組成エネルギー値と既収載の一致率
「成分表2020(八訂)」のエネルギー計算によるエネルギー量は、きのこ類や藻類で増加しています。これらの食品群は、エネルギー計算において、「成分表2015(七訂)」で行なっていたエネルギー値を計算し、その値に0.5を乗ずることをやめたためです。
最後に
これまでの献立を新しい「成分表2020(八訂)」を使って栄養価計算をしてみませんか。成分表の変化が実感でき、気づきがあると思います。献立の修正が必要な場合もあるかもしれません。どうぞよろしくお願いいたします。
参考資料
1) 第45回資源調査文科会資料1-1 日本食品標準成分表の改訂について
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/mext_00156.html
2) 第45回資源調査文科会資料1-2 成分表2020年版(八訂)表頭項目(案)
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/mext_00156.html
3)文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会編 日本食品標準成分表2020
年版(八訂);2020 http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/index.htm
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