渡邊智子 学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長
わたなべともこ●東京栄養食糧専門学校校長。医学博士。千葉県立衛生短期大学、千葉県立保健医療大学、淑徳大学を経て現職。千葉県立保健医療大学名誉教授、千葉県学校保健学会理事長。文部科学省による日本食品標準成分表の策定に食品成分委員会委員等として30年にわたり携わり、成分表活用の研究・提言を行なう。千葉県食育推進県民会議委員として千葉県の食育ツール(グー・パー食生活ガイドブック等)の開発・普及も行なっている。
成分値分析のための調理にはイオン交換水が使われている
食品成分表の成分値分析のための調理は、イオン交換水(無機質を除去した水)で行なっています。そのため、水道水に含まれる無機質(特にカルシウム)を栄養計算で加算すると、実際に摂取しているカルシウム量に近い値になります。カルシウムは摂取しにくい栄養素の1つでもあるので、この試みは栄養士・管理栄養士にも喫食者にも有益と思います。
水道水のカルシウム量を栄養計算に加算する方法は、2つです。
①成分表2020年版(八訂)の収載値を利用する。
②地域の浄水場のデータを利用する。
実際の摂取量を把握するためには、②のデータを利用することがベストですが、これはハードルが高く現場では、むずかしいのではないかと考えていました。
ところが、先日、茨城県の学校給食栄養士協議会からうれしいニュースがありましたので、許可を得てお知らせいたします。
学校給食への水道水の無機質の影響が気になり、水戸市の会員(栄養教諭・学校栄養職員)が水道局(浄水場)からデータの収集にとり組んだところ(素晴らしい!)、水戸市内の水源は複数あって地区による特徴があるとわかり、「地元の再発見!」につながったそうです。
また、この話題になったときに、他府県から水戸市に着任した食に関心の高い教員から、「水戸の水は外国みたいでシャンプーの泡立ちが悪く、お茶やごはんの味が変わる。だからきっと硬度が高いと感じていた」とコメントがあったとのこと。同じシャンプーを同じ量使っても泡がふんわりしないそうです。
成分表2020年版(八訂)の水道水の無機質量への関心からスタートした一連の流れと予測される到達点を記載しました。
成分表2020年版(八訂)に地方別の水道水の無機質が収載された(文科省・資源室)
それを使う方法をお伝えした(渡邊)
水戸市の浄水場別の水道水のカルシウムを調べてみた(水戸市の栄養教諭・学校栄養職員)
水戸市の水道水はカルシウム量が他の地域よりも多い、また地域差があった(水戸市)
先生方とこの話題で楽しい時間が過ごせた(先生方にも水道水のカルシウムに関心を持ってもらえた)(教諭間交流)
子どもたちに、水戸市の水道水の栄養的な特徴と、それを実感する方法(シャンプーの泡立ち方など)を伝えることができる (学校における食育)
発見があるって楽しいことだと思います。水道水のカルシウム量がわかることも楽しいことの一つです。楽しい波及効果がどんどん広がることを期待しています。
子どもたちが、水戸市の水道水の栄養的な特徴を伝えられますし、他府県を旅行したときにシャンプーの泡立ち方で実感し、食育の時間での学びを再確認するのではないでしょうか。
また、水戸市内でも地域により水源が異なり、水道水の特徴が異なるという事実は、興味深いです。相違の理由について、地形や地層、何時代から人が居住していたかなど、学校現場では、理科や社会の先生との連携した食育につながりそうです。
成分表2020年版(八訂)をきっかけに、栄養計算の見直しを行ない、子どもたちの毎日の食事に用いている水道水に着目して、とり組んでくださったこと、子どもの健康づくりに関わる栄養のプロとして、素晴らしいです。詳細もまたの機会にご紹介できればと思います。機会があれば、ぜひ、皆さんそれぞれの給食施設でもとり組んでみませんか。
浄水場の硬度からカルシウム量を計算する方法
ところで、浄水場が提供くださる情報は、カルシウムなど無機質そのものではなく、硬度です。そこで、硬度から、カルシウム量を算出する方法をご紹介します。
まず、硬度とはなんでしょうか。
硬度:水に溶解しているカルシウムとマグネシウムの量を炭酸カルシウム(CaCO3)の量に換算した値
カルシウムとマグネシウムを測定した場合には、
硬度(mg/L)= カルシウム濃度(mg/L) × 2.497 + マグネシウム濃度(mg/L)× 4.118
で算出すると定められています(厚生労働省告示)。
次に、硬度から、カルシウム量を計算してみましょう。
硬度に占める、カルシウム硬度とマグネシウム硬度の割合
日本の全国12地域についての「総硬度」、「カルシウムの実測値」、「マグネシウムの実測値」から計算するとカルシウムとマグネシウムの割合(平均値)は下記の通りです。
カルシウム(0.72):マグネシウム(0.28)
調べた硬度と「カルシウム(0.72):マグネシウム(0.28)」から、使用している水道水のカルシウム量を計算してみましょう。
方法1
1.入手した硬度(mg/L)を使って、(mg/100g)の値を算出しましょう。
硬度(mg/100g)=硬度(mg/L)÷10
2.水道水100gあたりのカルシウムとマグネシウムを計算しましょう。
カルシウム(mg/100g)=硬度(mg/100g)÷2.497×0.72
マグネシウム(mg/100g)=硬度(mg/100g)÷4.118 ×0.28
方法2
1.入手した硬度(mg/L)を使って、水道水100gあたりのカルシウムとマグネシウムを計算しましょう。
カルシウム(mg/100g)=硬度(mg/L)÷2.497×0.72 ÷10
マグネシウム(mg/100g)=硬度(mg/L)÷4.118 ×0.28 ÷10
浄水場での調査がむずかしい場合は、成分表2020年版(八訂)の地域別のカルシウム量の値(図)をご利用ください。
水(水道水)は、飲料のほかに飯、汁物、煮物などに用いられます。可能な範囲で、献立に用いた水の量を把握し、水道水のカルシウムのデータ(浄水場の値からの計算あるいは成分表の値)を利用し、栄養計算に加算してみませんか。たとえば、昼食から摂取した水道水が400mLの場合は、最もカルシウムの少ない東北で3.2mg、最も多い関東では7.1mgが加算できます。
今回は、成分表のユーザーの皆さんのお役に立つと考えられる素敵な情報を茨城県学校栄養士協議会からいただきました。水戸市の栄養教諭や学校栄養職員の皆さんが、子どもたちのためにとり組み、多くの気づきがあったそうです。素晴らしいと思います。うれしいお知らせをいただきありがとうございました。
成分表はユーザーの皆さんのためのデータ集です。よりよい活用事例があれば、ぜひお知らせください。皆さんのお悩みを解決できる事例があるのではないでしょうか。いっしょに成分表のよりよい活用方法を考えていきましょう。
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