渡邊智子 学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長
わたなべともこ●東京栄養食糧専門学校校長。医学博士。千葉県立衛生短期大学、千葉県立保健医療大学、淑徳大学を経て現職。千葉県立保健医療大学名誉教授、千葉県学校保健学会理事長、産業栄養指導者会会長。文部科学省による日本食品標準成分表の策定に食品成分委員会委員等として30年にわたり携わり、成分表活用の研究・提言を行なう。千葉県食育推進県民協議会委員として千葉県の食育ツール(グー・パー食生活ガイドブック等)の開発・普及も行なっている。
第66回日本糖尿病学会年次学術集会が2023年5月11日~13日に鹿児島市であり、シンポジウムの1つとして「食品成分表8訂のコンセプトの理解と糖尿病食事療法への応用」が開催されました。
このシンポジウムの座長は、寺内康夫先生(横浜市立大学医学部長 内分泌・糖尿病内科)および綿田裕孝先生(順天堂大学大学院教授 内分泌・糖尿病内科)でした。3人の演者が講演(講演2を私、渡邊が担当)し、その後、ディスカッションが行なわれました。
糖尿病学会で「食品成分表」についてシンポジウムを企画していただいたことは、栄養士・管理栄養士にとっては、嬉しいことです。「食品成分表」に関心を持っている医師や看護師の疑問に、適切な回答ができる栄養士・管理栄養士が求められていると思いました。私が校長を務める東京栄養食糧専門学校で成分表の特別授業の機会がありこの点について伝えたところ、学生は目を輝かせていました。他職種に求められたり期待されたりするのは嬉しいことですよね。栄養士・管理栄養士は「食品成分表」を最も利用する職種の1つですから、しっかり使いこなして応えていきましょう。
シンポジウムでの講演のタイトルと演者です。
1.糖尿病専門医が日本食品標準成分表2020年版(八訂)を理解しなくてはいけない理由
窪田直人(東京大学大学院医学研究科糖尿病・代謝内科病態栄養治療部)
2.日本食品標準成分表2020年版(八訂)の改訂のポイント
渡邊智子(学校法人食糧学院東京栄養食糧専門学校)
3.日本食品成分表8訂を糖尿病臨床に応用する際のさまざま問題点
佐々木敏(東京大学大学院医学研究科)
3つの発表の後で、秦明子先生(徳島大学病院糖尿病対策センター)、藤本浩毅先生(大阪公立大学医学部付属病院栄養部)、久米真司先生(滋賀医科大学内科学講座 糖尿病内分泌・腎臓内科)を加えディスカッションがありました。
さて、管理栄養士の皆様には嬉しい情報があります。ディスカッションの中で、佐々木敏先生から、「患者様の指示エネルギー量は、管理栄養士が提案し、それを医師が検討し指示することにしてはどうですか」とのご提案がありました。座長から「フロアーの管理栄養士さんはこのご提案に賛成ですか」とお声がけがあり、全員が挙手されたように見えました。一方で、反対の方とのお声がけには、お一人も挙手されませんでした。
これは、佐々木先生からの臨床分野の管理栄養士さんへの大きなエールと、思いました。
また、ディスカッションに参加された管理栄養士さんから「減量のための医師からの指示エネルギーが、本人の現在の摂取量を上回っている場合があります」とのお話もありました。シンポジウムに参加されていた医師の皆様も、指示エネルギーについては管理栄養士のほうが的確に判断できるとお考えのように感じられました。
このシンポジウムは、糖尿病専門医の先生方が「食品成分表」を理解し活用したいと考えていらっしゃることがよくわかり、さまざまな立場からの率直な意見を伺うことができた有意義で楽しい時間でした。
締め切り間近ですが、6月30日(正午)までオンデマンド配信(有料)も行っているので、ご興味をお持ちの方は申し込まれてはいかがでしょうか(https://site.convention.co.jp/66jds/online/)。
おまけです
佐々木敏先生は、6月15日に女子栄養大学出版部から『行動栄養学とはなにか? 食べ物と健康をつなぐ見えない 環(リンク)を探る』を上梓されました。『佐々木敏の栄養データはこう読む! 疫学研究から読み解くぶれない食べ方』並びに『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ 氾濫し混乱する「食と健康」の情報を整理する』に続く著作です。
本書は、食べ物と健康の関連について、「食べる」という人間の行動に焦点を当て、わかりやすく伝えることを目的としてまとめられものです。月刊『栄養と料理』の連載「1枚の地図からはじめるEBN 佐々木敏がズバリ読む栄養データ」の中から、本書のテーマにふさわしいものを選び加筆し再構成したものです。正しい情報を正確に伝えている「わかりやすい図」も豊富で、機知に富んだ可愛く表情ゆたかな動物のイラストも楽しめます。
全9章(1章 栄養学の縦糸と横糸、2章 複雑系、3章 相対重要性、4章 量・反応関係、5章 バイアス、6章 食行動を測る、7章 健康栄養情報と食行動、8章 社会で食べる、9章 行動栄養学とはなにか?)で構成されていますが、「はじめに」「本書の図表の見方」「おわりに」「(Break time)旅のひとこま」も本書の重要な部分です。
まず、「はじめに」を読み、著者の伝えたい(本書の魅力)を理解し、各章(著者も記載しているように、興味のある章からでも)を読みましょう。ちなみに、私は「はじめに」「おわりに」、「旅のひとこま」、9章…の順で読んでいます。
食べ物と健康をつなぐ環(リンク)――「食べる」という人間の行動と健康との関わりについて、なるほど!と納得すること、目から鱗と感じることなどが読者それぞれにたくさんあることと思います。わくわく楽しく読める1冊です。本書についてのツイッターアカウント(https://twitter.com/dataeiyosusume)もありますので、感想を共有するのもいいですね。
八訂 食品成分表2023
栄養計算ソフトほか全部で3つの電子版付録がついています
香川明夫/監修
私たちが日ごろ食べている食品にはどんな栄養素がどのくらい含まれているのでしょうか? 「食品成分表」はそのデータ集であり、女子栄養大学出版部では食と健康に関する最新資料とともに「本表編」と「資料編」の2分冊にとりまとめて毎年出版しています。