渡邊智子 学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長
わたなべともこ●東京栄養食糧専門学校校長。医学博士。千葉県立衛生短期大学、千葉県立保健医療大学、淑徳大学を経て現職。千葉県立保健医療大学名誉教授、千葉県学校保健学会理事長。文部科学省による日本食品標準成分表の策定に食品成分委員会委員等として30年にわたり携わり、成分表活用の研究・提言を行なう。千葉県食育推進県民会議委員として千葉県の食育ツール(グー・パー食生活ガイドブック等)の開発・普及も行なっている。
前文には「積極的に活用を図られたい」の記述
栄養士・管理栄養士の皆さんが注目すべき「『日本食品標準成分表2020 年版(八訂)』の取扱いについて」が、厚生労働省健康局 健康課長より「健健発0804第1号」として(令和3年8月4日づけ)で通知されました。
ぜひ、全文をごらんください。
内容は、
1 成分表 2020 年版の活用に当たっての基本的留意点 と
2 栄養指導等における留意点 です。
今回は、1の(1)についてご紹介します。
通達では、これらの記載の前に
「日本食品標準成分表 2020 年版(八訂)」(以下「成分表 2020 年版」という。)が公表されたので、その目的及び性格を十分に理解した上で、積極的に活用を図られたい。
という記述があります。
皆が初めて使うものですから、お互いに試行錯誤し情報共有することも大切だと思います。
1 成分表 2020 年版の活用に当たっての基本的留意点 を見てみましょう。(1)には、下記のように4つの文章が記載されています。図1を参考にしながらご覧ください。
図1 成分表2020年版(八訂)の表頭(エネルギーに関する項目)
成分表 2020 年版においては、「炭水化物」が「利用可能炭水化物(でん粉と単糖・二糖類)」と「食物繊維・糖アルコール」に細分化された(図1の青枠)。
→(これについては本連載21回で説明しましたのでご参照ください)
また、従来、食品のエネルギーの算出基礎とされてきたエネルギー産生成分である「たんぱく質」、「脂質」及び「炭水化物」を、原則として、それぞれ、「アミノ酸組成によるたんぱく質」、「脂肪酸のトリアシルグリセロール当量で表した脂質」及び「利用可能炭水化物等の組成に基づく成分」(図1の赤枠)に変更された。
→(本連載第8、16、17回で記述しましたが、赤枠の成分は、組成成分表に基づく、より確からしい値です)
この結果、成分表 2020 年版において、エネルギーは従来法に比べて、約9kcal/100g 低い値(収載されている全 2,478 食品の平均値)となっている。
→ この詳細は、「安井健,松本万里,渡邊智子,他:日本食品標準成分表2020年版(八訂)におけるエネルギーの計算方法,日本栄養・食糧学会誌,74,171-180(2021)」に記述されています。ここでその部分を見てみましょう。
エネルギー量の相違の要因はおもに4つ
成分表2020年版(八訂)の全収載食品について、2つのエネルギー算出方法によるエネルギー量の相違をみると、2020E(成分表2020の方法によるエネルギー)は2015E(成分表2015の方法によるエネルギー)の値に比べ、平均値で8.66 kcal/100g(95 %信頼区間:7.97 – 9.26 kcal/100g)小さい値です。その要因は、おもに以下の4つです。
エネルギー量の相違のおもな要因
①アミノ酸組成によるたんぱく質量は、たんぱく質の収載値に比べ平均1.70 g /100g(95 %信頼区間:1.61-1.79 g/100g)少ない。
②脂肪酸のトリアシルグリセロール当量は、脂質に比べ平均0.84 g /100g(95 %信頼区間:0.79 – 0.90 g/100g)少ない。
③利用可能炭水化物、食物繊維、糖アルコールおよび有機酸に細分した場合は、差引き法による利用可能炭水化物を用いる場合を除き、炭水化物のエネルギー換算係数である4 kcal/gよりも小さなエネルギー換算係数(1.6 – 3.6 kcal/g)を利用することになる。
④当該食品において、2020年版では、2015年版で利用していたエネルギー換算係数よりも、小さなエネルギー換算係数を用いている。等
一方、食品群別に2020Eと2015Eの値を、成分表2015年版(七訂)および追補成分表の収載食品について、個々の食品の一致率(成分表2020E÷成分表2015E×100)を算出し、食品群別平均値および全食品の平均値を表1に示しました。また、個々の食品のエネルギーの相違量(2020E-2015E)についても平均値を示しました。
全食品のエネルギー量の一致率は 91%ですから,2020Eは2015Eに比べ9%少なくなっていることがわかります(表の★)。表の★のきのこ類や藻類のように、2020Eが2015Eに比べ、18~26%高い食品群もあります(きのこ類や藻類は、2015Eの方法ではエネルギー換算係数に0.5を乗じていたためです)。
そのため、食品群により2020Eと2015Eの相違は一定ではないので、注意しましょう。
表 食品群別組成エネルギー値と既収載の相違
松本万里,渡邊智子,松本信二,他:食品のエネルギー値の算出方法についての検討:組成に基づく方法と従来法との比較,日本栄養・食糧学会誌,73, 255-264(2020)
主食で相違が大きいのは麺類
成分表のユーザーとして考えたいことは、日本人の食事は主食から半分のエネルギーを摂取することが多い特徴があり、全食品を平均的に食べないということです。ここで示されている約9kcalおよび9%の差は献立によって異なってきます。
たとえば、主食を『飯,かゆ,おもゆ等の「飯など類」』、『食パン等の「パン類」』、『うどん,そば等「麺類」』に分けて主食から食事の半分のエネルギー量を摂取すると想定し、食事のエネルギー量を、2020Eと2015Eで算出し相違を計算するとその相違の大きさは、「パン類」<「飯など類」<「麺類」です。
精白米飯を主食にする献立では2020Eは3~4%小さい値です(参考:渡邊智子:『日本食品標準成分表』の活用でもっと深まる食品と調理のキソ知識第28回「エネルギーと食物繊維」,臨床栄養,139,260-269(2021))。
つまり、これまでの献立を2020Eを用いて評価すると、給与目標量に対し低い値になることがほとんどです。しかし、その程度は献立により異なります。
これは、これまでの献立のでき上がりや味は変化しませんが、食べ物の物差しである成分表2020年版(八訂)がこれまで以上に確からしい値になったためです。
そこで、これまでの献立を使って、本連載第23回で解説したように、成分表2015年版(七訂)の方法でエネルギーを計算し、成分表2020年版(八訂)のエネルギーの値と比較してみることがたいせつです。どの献立でどれだけ違うかがわかるので、ぜひご確認ください。今後の対応を考えることができます。
エネルギー算出方法の変更により、科学的確からしさが向上する一方で、従来の方法で算出したエネルギーとの比較ができなくなることに留意すること。
→ 2020Eは、確からしいエネルギー量です。一方で、これまでの方法とは異なるので、当然、両者の比較はできません。
この通知では、栄養計算を成分表2020年版(八訂)のエネルギーを使い、「アミノ酸組成によるたんぱく質」、「脂肪酸のトリアシルグリセロール当量で表した脂質」及び「利用可能炭水化物等の組成に基づく成分」を使う などの指示はありません。
本連載第16回、17回で記述したように、エネルギーとエネルギー産生成分は、ユーザーが考えて選択すること、また計算結果には、どれを用いたかを明記することが重要になると理解できます。
次回(第25回)は、厚生労働省からの通知「『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』の取扱いについて」の続きを記載します。
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