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食品成分表

■連載【7】食品成分表の「エネルギー」の話(2) 「エネルギー」が項目名になったのは四訂から!

知れば知るほどおもしろい!「食品成分表」渡邊智子栄養学食品成分表

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「エネルギー」が項目名になったのは四訂から!

渡邊智子
淑徳大学看護栄養学部教授/文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会食品成分委員会主査代理

前回は新しいエネルギーの出し方についてご紹介しましたが、エネルギーについて、初版から三訂を振り返ってみましょう。

 エネルギー energyは、カロリーではない

初版の食品成分表は、エネルギー=カロリーです。下の写真は、初版の成分表の表頭です。

「成分表2015(七訂)」では エネルギー kcal  と記載されているものが、1950(昭和25)年公表の初版の成分表では、数値表では、項目名が「カロリー」、単位が「Cal.」です。

初版成分表の表頭(1950年)

初版成分表の表頭(1950年)

項目名はカロリー、単位はCal.。

この記載方法は、「改訂成分表」および1963年公表の「三訂成分表」でも踏襲され、ようやく1982年に公表された「四訂成分表」で、項目名「エネルギー」と単位「kcal」に、変更(修正)されました。つまり、32年間の長きにわたり、エネルギーを「カロリー」とし、単位を「Cal.」として、みんなでこれを利用してきました。

改訂成分表の表頭(1954年)

改訂成分表の表頭(1954年)

項目名はカロリー、単位はCal.。

三訂成分表の表頭(1963年)

三訂成分表の表頭(1963年)

項目名はカロリー、単位はCalories(Cal.)。

四訂成分表の表頭(1982)

四訂成分表の表頭(1982)

四訂でようやく項目名がエネルギー、単位はkcalに変更(修正)。

「四訂成分表」が公表後、2020年で38年になった今、エネルギーは定着していますが、単位の「キロカロリー」は、「カロリー」と呼ばれている場面を散見します。成分表を初めて見る大人に、成分表を見てもらいながら、食事や料理のエネルギーの単位をカロリーと読み説明する指導者に対し、先方が混乱している様子が明らかにわかります。単位の読み方は大切です。正確に使うようにしましょう。

エネルギー換算係数の変遷
アトウォーター係数から複数の係数の組み合わせへ

 

初版の成分表ではアトウォーター係数

初版の成分表は、成分表の項目として、なぜか単位の「カロリー」を使っています。しかし、解説では、「熱量素」として(熱量素の燃焼値はアトウォーター係数……)と記載しています。ちなみにエネルギー換算係数は、すべての食品で、「たんぱく質は4Cal、脂質は9 Cal、糖質は4 Cal、アルコールを7 Calを用い、この係数を用いているので、食品個々の異なる消化吸収率は導入されていない」と記載されています。

三訂成分表からは複数の係数の組み合わせ

「改訂成分表」は初版と同様に「熱量素」として、同様の解説が行なわれています。一方、「三訂成分表」では、解説が「カロリー」に変更されています。「三訂成分表」は「四訂成分表」が公表されるまでの18年間使われていたので、「エネルギー=カロリー」が定着したものと推察されます。すべての教科書もそうだったのでしょうから……。

さて、「三訂成分表」の「カロリー」の解説では、「アトウォーター係数を使っていたが、できる限り食品個々の消化吸収率を考慮した生理的カロリー換算係数を用いることとした。」と記載し、エネルギー換算係数の名称をカロリー換算係数に変更しています。

「米やその製品については我が国の実験成績に基づく係数その他はFAOの提唱する個々の食品のカロリー換算係数とし、それ以外をアトウォーター係数とし、アルコールを6.93Cal、有機酸を2.40 Calとし、藻類ときのこ類、茶、こんにゃくおよび調味料の一部は、カロリー利用率の決定が困難なため、数値を記載しない」としています。解説をみると、明らかに、「カロリー」の名称が「エネルギー」の意味で記載されています。

なお、藻類ときのこ類、茶、こんにゃくおよび調味料の一部は、「五訂成分表」から「成分表2015(七訂)」までは、アトウォーター係数を用いて算出した値に0.5を乗じる方法をとってきました。

八訂からは藻類やきのこ、こんにゃく等もほかの食品と同様に

「成分表2020(八訂)」では、藻類ときのこ類、茶、こんにゃくは、「三訂成分表」や「四訂成分表」で行なっていた「-」や、「五訂成分表」から「成分表2015(七訂)」まで行なってきたアトウォーター係数を用いて算出した値に0.5を乗じる方法から、ほかの食品と同様の方法に変更されています。

これらの食物繊維が多い食品については、これまでのエネルギー換算係数を決定するために用いた研究結果を否定するわけではありません。これらの食品の消化吸収率は、その食品の料理方法や食べる人の咀嚼の程度も影響し、個人差が大きい食品といえるのではないでしょうか。

エネルギーの値の計算方法はこのように変化してきました。

そして「食品成分表2020(八訂)」では、エネルギー換算係数とは別に、エネルギー値の計算に用いるエネルギー産生栄養素(たんぱく質、脂質、炭水化物)が変わるのです(前回参照)。

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