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食品成分表

【成分表連載35】食品成分表を「よこ(栄養成分等)」と「たて(食品分類)」で分けてみると…(よこ編)

知れば知るほどおもしろい!「食品成分表」渡邊智子栄養学食品成分表

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渡邊智子 学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長

 

わたなべともこ東京栄養食糧専門学校校長。医学博士。千葉県立衛生短期大学、千葉県立保健医療大学、淑徳大学を経て現職。千葉県立保健医療大学名誉教授、千葉県学校保健学会理事長、産業栄養指導者会会長。文部科学省による日本食品標準成分表の策定に食品成分委員会委員等として30年にわたり携わり、成分表活用の研究・提言を行なう。千葉県食育推進県民協議会委員として千葉県の食育ツール(グー・パー食生活ガイドブック等)の開発・普及も行なっている。

食品成分表の「よこ(栄養成分等)」と「たて(食品分類)」

女子栄養大出版部など、民間の出版社の食品成分表2023年版がまもなく刊行されます。文部科学省版の「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」に準拠し、正誤表も反映した食品成分表を入手して、新たな気持ちで栄養計算などに活用ください(残念ながら、文部科学省版の成分表2020[八訂]は、栄養計算の実務、成分表を使っての研究で利用することに最適とはいえません)。栄養計算ソフトも同様です。栄養アドバイスや栄養計算などを丁寧に適切に行なうためには、その根拠となる最新版の適切な食品成分表を使うことがとても重要です(ぜひ、お願いします。いまだに、成分表2010や成分表2015[七訂]を使うことは間違いなので、そのような場面に遭遇した場合は最新版の成分表の利用をおすすめください)。

さて、都内のある保健所の食品成分表に関する講演の依頼がありました。「あらためて知りたい成分表のよことたて」をテーマに、「食品成分表のよこ(栄養成分等)」と「食品成分表のたて(食品分類)」を各1回です。

成分表の解説をこのような分け方で行なうという依頼は初めてですが、興味深いと思いました。そういえば、栄養士や管理栄養士の養成校では、「成分表のよこ」は食品学総論、「成分表のたて」は食品学各論でおもに学びます。そしてその後は活用方法における体系的なガイダンスはあまりなく、多様な科目で食品成分表をあたりまえのように活用する授業が行なわれがちであることを思い出しました。

今回、行政の管理栄養士さんが、住民の食事に関わる管理栄養士、栄養士などに成分表を理解してほしいと企画した「あらためて知りたい成分表のよことたて」は、成分表を理解するための素敵な企画だと思います。

成分表の「よこ(栄養成分等)」の見方を学ぶ

「よこ」についての内容を、講演依頼者から届いた参加者の要望事項を踏まえピックアップしてみました。このWeb連載で解説している内容についてはご案内(リンク)を記しましたので、気になるかたはぜひご覧ください。

成分表の「よこ(栄養成分等)」でおさえるべきポイント

1)文科省版の日本食品標準成分表2020年版(八訂)を準拠とし正誤表も反映した食品成分表を入手

2)エネルギーが減少した理由と対応

第8回 食品成分表の「エネルギー」の話(3) 「成分表2020(八訂)」公表! 新しい計算法によるエネルギー値になり、きのこや藻類のエネルギーが増加

第16回 「『成分表2020年版(八訂)』のエネルギー値やエネルギー産生栄養素のどの数値を使えばよいのか」とお困りの皆さんへ

第18回 再び、成分表2020年版(八訂)のエネルギーのお話です

第23回 緊急! 成分表2020年版(八訂)での栄養計算により、エネルギー量が低くなって困っている方へ

3)エネルギー産生比率の計算方法

第17回 「七訂までの計算方法によるエネルギー値を使いたい場合」や「エネルギー産生栄養素バランスの計算」についてお困りの皆さんへ

4)炭水化物の群の詳細と3つの利用可能炭水化物の使い方

第21回「成分表2020年版(八訂)」の「炭水化物」と3種の「利用可能炭水化物」はこう使いましょう!(前編)

第22回「成分表2020年版(八訂)」の「炭水化物」と3種の「利用可能炭水化物」はこう使いましょう!(後編)

第34回「炭水化物がやはりわからない」にお答えします

5)2つの分析方法が混在する食物繊維総量の使いかた

第30回 飯(めし)類の食物繊維総量の推定値表付き! 成分表2020年版(八訂)の「食物繊維」の見方と推定のくふう

6)たんぱく質とアミノ酸組成によるたんぱく質の相違

7)廃棄率の数値の利用方法

8)ナイアシンとナイアシン当量

9)備考欄の内容とその活用

10)重量変化率の活用方法(調理した食品、重量と質量について)

11)栄養表示で示されている成分値の利用方法 

「たて」の内容はまたの機会とし、今回は「よこ」の、を付してある 8)のナイアシンに関することと、を付してある 10)の重量と質量の意味についてご紹介します。

「ナイアシン」の栄養計算は「ナイアシン当量」を使う

成分表2020(八訂)では、成分表2015(七訂)で収載していた「ナイアシン」に加え「ナイアシン当量」が収載されました。成分表のナイアシンとナイアシン当量の説明です(一部改変)。

ナイアシン(Niacin)/単位はmg
ナイアシンは、体内で同じ作用を持つ「ニコチン酸」および「ニコチン酸アミド等」の総称です。酸化還元酵素の補酵素の構成成分として重要であり、生体中に最も多量に存在するビタミン。欠乏すると、皮膚炎、下痢、精神神経障害を伴うペラグラ、成長障害等が起こることが知られています。
ナイアシン当量(Niacin equivalents)/単位はmgNE
ナイアシンは、食品から摂取するナイアシンに加え、生体内でトリプトファンから一部生合成されます。トリプトファンの活性は、ナイアシンの1/60とされています。そこで、この合計量をナイアシン当量とし、1式で計算しています。

ナイアシン当量(mgNE)= ナイアシン(mg) + 1/60 × トリプトファン(mg) ・・1式

なお、トリプトファン量が未知の食品では,ナイアシン当量の算出は、たんぱく質の1%をトリプトファンとみなし、2式により計算しています。

ナイアシン当量(mgNE)= ナイアシン(mg) + たんぱく質(g) × 1000×1/100 × 1/60(mg)・・2式

一方、栄養計算を比較するために参照とする「日本人の食事摂取基準(2020年版)」を見ると、下記のように記載されています(一部改変)。

ナイアシン活性を有する主要な化合物は、ニコチン酸、ニコチンアミド、トリプトファンである。狭義では、ニコチン酸とニコチンアミドを指します。

広義では、トリプトファンのナイアシンとしての活性が、重量比で 1/60 なので、ナイアシン当量は3式から求められる。

ナイアシン当量(mgNE)=ナイアシン(mg)+1/60 トリプトファン(mg)・・3式(1式と同じ)

ナイアシンの食事摂取基準はニコチン酸量として設定し、ナイアシン当量(niacin equivalent:NE)という単位で設定しました。食事摂取基準の「ナイアシン(上述したように、実際にはナイアシン当量)」の単位は、(mgNE)です。

以上より、栄養計算ではナイアシンではなくナイアシン当量の成分項目を使いましょう!

これを行なうと、成分表2015(七訂)を使ったナイアシンの栄養計算よりも、ナイアシン(ナイアシン当量)の摂取量は当然、高い値になります。そのため、ナイアシンについて、食事摂取基準を基にした給与目標量と、栄養計算結果を比較する場合は、成分表2015(七訂)を使った結果と、成分表2020(八訂)を使った結果の比較はできません(成分表2015(七訂)を使う場合には、2式で計算する必要があります)。

「重量」と「質量」違いは?

成分表 2020(八訂)では、「重量」という言葉を「質量」に変更しました。質量と重量の説明をします。

質量(mass)/単位は kg
物体(自分や食品)そのものの量です。質量は、食品や自分等、物質に備わっている量です。そのため、どこへ行っても不変です。
重量(weight)/単位はN(=kg・m/s)
物体(自分や食品)にかかる重力です。重量は、食品や自分など物質にもともと備わっている量ではなく、質量に重力加速度を乗じた量です。つまり、重量=質量(kg)×重力加速度(kg・m/s2)です。

成分表2015(七訂)の公表時点では、「重量」から「質量」への変更は、利用者にとってはなじみが薄い用語への変更とされ、成分表2015(七訂)では、食品の重さは、用語として「重量」を使用していました。

しかし、成分表2020(八訂)の公表時点では、教育面での普及および各分野で重さの用語として、「重量」を「質量」に置き換えることが進んでいることから、「質量」を使用することになりました。

まだなじみがないかたもいらっしゃると思いますが、重さの用語として「質量」を使っていきましょう。

ただし、成分表2020(八訂)では、調理前後の質量の増減は、調理による質量の変化ですが、「重量変化率」が用語として定着しているために、成分表2015(七訂)と同様に「質量変化率」とせず「重量変化率」としています。

今年も、成分表に関するお得な情報をお伝えします。

どうぞよろしくお願いいたします。


八訂 食品成分表2023

2023年版は2月下旬発売!
香川明夫/監修

私たちが日ごろ食べている食品にはどんな栄養素がどのくらい含まれているのでしょうか? 「食品成分表」はそのデータ集であり、女子栄養大学出版部では食と健康に関する最新資料とともに「本表編」と「資料編」の2分冊にとりまとめて毎年出版しています。

詳細はこちら(まだ2022年版へのリンクとなっています)

 

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