アジア 食の旅、病の地図
■アジア 食の旅、病の地図
地元メシから見える「民族の健康戦略」
■佐々木 敏/著
■978-4-7895-5467ー1
■A5判 148mm×210mm 216ページ
■定価:2,200円(本体2,000円+税)
■発行年月:2026年3月
商品説明
世界を歩き、世界の論文を読み続けてきた栄養疫学者・佐々木敏。
本書は、著者が半世紀近く続けてきた「リアルな旅」と
「バーチャルな旅(論文の世界旅行)」を重ね合わせ、
アジア12か国の“地元メシ”の向こう側にある
民族ごとの健康問題・食文化の成り立ち・生存戦略を読みとく一冊です。
「なぜ人はその食べ方を選んだのか?」
「その食文化はどんな病気をもたらし、また防いできたのか?」
旅の風景・料理写真×栄養疫学データの図表をふんだんに盛り込み、
科学と旅情が同時に味わえます。
■本書の特徴
「食べ物は土地の産物である」
その土地の気候・地形・歴史・宗教・貧困など、環境と歴史が食と健康を形づけるという著者の視点から、現代の私たちの食生活にも新しい示唆が得られます。
地元メシの向こうにある “健康の物語” を読みとく
淡水魚・発酵食・保存食など、現地であたりまえに食べられている食文化が、どのように病気や健康課題と結びつくのかを、旅の体験と研究データの両面から示します。
旅の臨場感 × 科学的データで、食と病の関係が立体的にわかる
旅で見た“食卓と風景”の写真と、栄養疫学研究の図表が組み合わさることで、その食文化がどんな健康問題を生み、どんな命を救ってきたのかが直感的にもわかりやすく示されています。
■本書で扱う国の例
淡水魚はラオス中南部の主要なたんぱく源であり、生活に欠かせない食材。しかしその背景には、 コイ科の魚に寄生する“タイ肝吸虫”という深刻な健康問題が潜んでいます。 それでも食べ続けてきた背景には、たんぱく質不足を補うための民族の生存戦略があります。
■こんな方へ
ー食文化・民族学・地理に興味のある方
ー管理栄養士・栄養士・医療従事者
ー海外の食と健康問題を知りたい研究者
ー旅行記が好きな一般読者
ーアジアの生活文化や“地元メシ”に心惹かれる方
教養としても、専門書としても楽しめる内容です。
■構成
ラオス(中南部) たんぱく質とタイ肝吸虫とタイワンオオコオロギ
インドネシア(バリ島) テンペとウォレス線と花と瞑想の島
カンボジア(シェムリアップ) トンレサップ湖の鉄の魚は幸せを運ぶか?
インドネシア(ジャワ島)とミャンマー(バガン) 仏教遺跡とパーム油と必須脂肪酸
タイ(東北部:イサーン) カオニャオとソムタムと尿路結石
モンゴル 青空とくる病と白いきのこ
マレーシア(マラッカとペナン) 3つの民族と4つの民族料理
ベトナム(南部と中部)しなやかな民と葉野菜のざる盛り
フィリピン(ルソン島北部) 天空の棚田と糖尿病の未来予測
韓国(全州とソウル) 胃がんと食の文化遺産の行方
台湾(台南と台中) 美食の島で素食を考える
ミクロネシア(ポンペイ島) 肥満で沈むか南洋の楽園
旅のこぼれ話 / 旅の流儀(スタイル) ほか
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はじめに(全文公開)
旅は楽しい。苦労もトラブルも含めて楽しい。そして、旅の途中で食べた土地の食べ物は、その土地の空気やざわめきも含めて忘れられない味となる。どれも形としては残らないが、思い出と経験になり、人生を豊かにしてくれる。旅と食べ物の話を始める前に、子どものころのことを少しだけ思い出してみたい。
リアルの旅とバーチャルの旅
10歳のとき、蝶の採集に夢中になった。校区を越えて近くの里山に出かけるのは、子どもには充分に冒険だった。景色が変わり、風の音も人の話し声も違って聞こえた。中学生になると列車に乗ってほかの町に出かけるようになった。高校生の夏休みには自宅のある
三重県から九州や北海道までひとりで足を延ばした。大学2年生のとき初めて海外に出た。バックパッカーとして北インドとネパールを1か月かけてひとりでまわった。インターネットもスマートホンもはるか先のころの話だ。食べ物に対する考え方も衛生状態も日本とは驚くほど違っていた。「なぜこの人たちはこの食べ物をこんなふうに食べるのだろうか? なぜそれで生きていられるのだろうか?」と考えた。一方で、自分の常識や価値観がかならずしも普遍的なものではないことにも気づいた。このような旅をくり返すうちに、土地の人たちの日常食(地元メシ)を探し出し、土地の人たちの中でそれを食べ、その意味を考えるために旅をするようになっていった。その後、半世紀近く、毎年どこかの国を旅し、土地の人でにぎわう食堂や市場を巡ってきた。それを今も続けている。大学で工学と医学を修めた。工学部では世の中の現象は測定可能で、客観的、構造的に理解すべきものだということを学んだ。医学部では、病気を治す術すべよりも人が病気になる理由のほうに魅かれた。病気は偶然にかかるものでも遺伝子で完全に決まっているものでもない。病気の多くは、生活環境の結果として起こる。日本人のおもな死因が結核などの感染症からいわゆる生活習慣病に変わり、その予防対策の重要性が強調され始めたころだった。社会を舞台として「生活環境と病気や健康状態を測り、それらの間の関連を探る学問」が疫学だと知った。生活環境として「食習慣や食環境」を扱えば「栄養疫学」となる。当時、日本ではほとんど学べなかったので、西ヨーロッパにあるベルギーに渡った。栄養疫学の研究者は世界各地で「食習慣や食環境と病気や健康状態の関連」について調べ、その結果を論文として発表する。やがて栄養疫学者となり世界中の栄養疫学の論文を読むのが仕事になった。これは研究室にいながらにしてできる世界旅行だった。
こうしてぼくは、バックパッカーとして世界をうろつくような旅と、世界中の栄養疫学の論文を渉猟する旅の両方を楽しんできた。前者が、地球を自分の足で歩く「リアル」な旅とすれば、後者は、時空を超え世界を俯瞰する「バーチャル」な旅といえるだろう。やがて、それらは互いを深く理解するために役立つことに気づいた。これが本書の着想となり、構造の骨格となった。
旅と地元メシ
旅の本は多い。ガイドブックも旅エッセイもたくさんある。グルメ本も多い。各国料理のレシピ本も楽しい。土地の歴史や文化や自然を解説した本もたくさんある。どれも好きだ。しかし、病気や健康(というよりも不健康)とその土地の食文化の関連を地理的・歴史的背景までさかのぼって、科学的に解説する本には出合ったことがない。「人間は食べたものでできている」ことと「食べ物はその土地の産物である」ことを考えれば、これは不思議だ。土地の人がなにげなく食べている食べ物にも、それがその土地でそこの人々に選ばれた地理的・歴史的な深い理由があるはずだ。そして、その食べ物を日常的に食べ続けていたら、それによってその土地の人々は特定の病気にかかりやすくなるはずだ。それでも、その土地で暮らす人々には、その食べ物を食べなくてはならない理由があったはずだ。そこまで知れば、その食べ物はさらに味わい深いものになるだろう。同時に、その土地の人々への理解も深まり、親しみももっと湧くだろう。
一方で、食べ物や栄養と健康に関する本も多い。こちらは書物よりもテレビや雑誌、インターネットなどで大量の情報が毎日流されている。この種の情報が、いかに求められているかがよくわかる。しかし、「食べ物(A)には栄養素(B)が豊富」、「病気(C)には食べ物(A)が効く」といった、実用的だが表面的で短絡的な情報がほとんどだ。その起源や由来が添えられることがあっても、逸話や研究の断片の域を出ない。人の歴史は病との闘いであり、そのかなりの部分に食べ物(または食べられないこと)がからんでいた。そうであるならば、食べ物と病の間にはとても深い歴史がたくさん詰まっているはずだ。それを知らずして食べ物に健康を求めるのは、人として悲しい。
旅を通して、生きるという面から日常食(地元メシ)の本当の存在理由を探りたい……これが本書執筆の動機である。
食文化と生存戦略たとえば、干物ははるか昔にどこかでだれかがなにかのために発明したもののはずだ。それは「魚に塩をして天日に干せばおいしくなる」からではなかっただろう。そうではなく、保存も輸送もむずかしい魚を食べなくてはならない切実な理由があって、そのために干物を作り出したのだろう。干物は(干物も)生存戦略の産物である。生存戦略とは、文字どおり、人々がその土地で生きる(死なない)ための戦略のことである。健やかに生きるためまで広げると、健康戦略とも呼べる。人の歴史は長い間食べられない歴史であり、エネルギーの不足(飢餓)と栄養素の不足(欠乏症)の歴史だった。どの食べ物が足りなくて飢餓に陥るのか、どの栄養素が足りなくてどの病気にかかるのかは気候や環境によって違っていた。人々はその土地の食べ物をくふうすることでこの問題を乗り越えようと腐心してきた。今もその病気や健康問題と闘っている地域もあるし、そこから脱し、本来の役割を終えた食べ物や食べ方が食文化となって残っている地域もある。
いま世界の多くの国が、肥満や高血圧、糖尿病やがん(癌)といったいわゆる生活習慣病の増加に悩んでいる。食べすぎやバランスを欠いた食べ方によって起こる生活習慣病の歴史は、飢餓や栄養素不足の歴史に比べればはるかに短い。ところがその構造や原因はもっと複雑だ。その原因は1つの土地や1つの国に収まりきらず、国や大陸をまたいだものになっている。しかしこれもまた、国により地域によって少しずつ違っている。つまり、新たな形の生存戦略・健康戦略が求められている。
生きるための食も、生活習慣病に抗する食も、どちらも生存戦略・健康戦略(またはそれらの欠如や誤用)の産物である。これが本書を貫く思想である。
本書の構造
本書は、東アジアと東南アジア12か国で、筆者が食べ歩いたリアルな旅の思い出と、その食べ物やその食べ方ゆえにその地域やその民族が直面してきた健康問題にまつわる研究結果をまとめたバーチャルな旅の2つからできている。リアルな旅には現地の風景と食べ物の写真を添えた。バーチャルな旅には代表的な研究結果を図にして添えた。両方とも本書のたいせつな構成要素である。じっくりとごらんいただけたらありがたい。
全体を第一章と第二章に分けた。第1章では「生きるための食」をテーマに、栄養不足や感染症といった、いわゆる古典的な健康問題を扱った。旅行者の目には触れにくいが、生存戦略としての食を知るにはこの問題から始めなければならない。第2章では「現代の病と食」をテーマに、生活習慣病にまつわる話題をまとめた。生きるために作り上げた食環境や食文化が生活習慣病を招いた例もあるし、伝統食が失われたために生活習慣病の蔓延を招いてしまった例もある。生活習慣病を防ぐヒントになりそうな例もある。また、本書の主題とは直接の関係はないが、旅の折々に感じたことや旅で体験したことを「旅のこぼれ話」として各話のあとに一つずつ挿入してみた。
基本的に1つの国は1つの話題としたが、日本がそうであるように、「1つの国=1つの食べ物=1つの病気(健康問題)」ではない。人口規模が大きく歴史や民族構成が複雑な国はなおさらだ。だから、その国全体の話ではなく、1つの地方の話として読んでいただくほうがよいだろう。それでも、日本全体がほかの国、たとえば隣の韓国や近くの台湾などと確実に違うように、国ごとの特徴も感じてもらえると思う。それぞれの「食と命(または病)の環(リンク)」の物語を楽しんでいただければ幸いです。
■著者プロフィール
佐々木敏(ささきさとし)
栄養疫学者・東京大学名誉教授
京都大学工学部、大阪大学医学部卒業。大阪大学・ルーベンカトリック大学大学院両博士課程修了。医師、医学博士。東京大学医学部において、日本の食事調査および疫学研究の基盤を築いた第一人者。女子栄養大学客員教授も務める。
趣味は国内外の市場めぐりと食べ歩きで、これまでに約50か国を訪問。各地の食文化に精通し、栄養疫学の視点から、人の食行動と世界の食文化に目を向けながら、「根拠に基づく食と健康情報」をわかりやすく伝えている。
著書に『佐々木敏の栄養データはこう読む!』『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』『行動栄養学とはなにか?』(いずれも女子栄養大学出版部)などがあり、医療者・栄養関係者から長く支持されている。
X(旧ツイッター)で本書と著者の情報を発信しています。
佐々木敏の本
第1弾
佐々木敏の栄養データはこう読む!第2版
「和食」は本当に健康食か?/ダイエットは糖質か、脂質か?/健康によいお酒の飲み方はあるか?/栄養健康情報はなぜゆがむのか?ーー「根拠に基づく栄養学」が生活習慣病と食事との関係を中心に解説する33話。
第3弾
行動栄養学とはなにか?
健康の鍵は、「食べ物」よりもその「食べ方」にあったーー食行動を測るのは難しい。しかも、そう思われていないからやっかいだ。日々の営みである食と、その積み重ねの結果である健康との関連を栄養データから読みとき、栄養の本質を探る。
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